ねえ、大好きだったよ (Page 3)
「蒼真…っそう…ま…っ」
後ろから、指を1本2本。丁寧にほぐされながら何度も名前を呼ぶ。ずっと大好きだった彼の名前。もう簡単に呼ぶことができなくなる彼の名前。
あてがわれたソレは熱を帯び、ゆっくりと入ってくる。その圧迫感は徐々に快感に変わっていった。部屋の中に響く時計の針と2人の水音、混ざりあう熱い吐息。
ふと目が合ったときに落ちる唇の隙間からゆっくりと舌が入ってくる。絡み合う唾液と息づかいが愛おしくて、切なくて。
打ち付ける腰は速度をあげ、余裕がなくなっていく彼の顔が好きだった。
まだ、イきたくない。そう思って体位を変えるように提案する。
「蒼真、次は僕が上になってもいい?」
『ん。おいで』
そう言って1度モノを抜いた後、横たわる彼。硬くなった蒼真のモノを握りながら自分の穴へと飲み込んでいく。彼の火照った身体も、張り付く汗も硬い腹筋も、僕のものじゃなくなってしまう。
どこか不安げな顔をしてしまったのか、蒼真が手を握ってくれた。指と指を絡めてたくさん密着できる大好きな繋ぎ方。ふと泣きそうになった。それを忘れるように必死に腰を動かす。快感と理性と寂しさがぐるぐると混ざり合いながら、下腹部の奥を熱くする。
「蒼真…っ、僕…もう…っ」
見下げたときに頬からつたう汗が艶やかで、そんな彼が大好きだった。
『…っ俺もイきそ…』
「ナカにちょうだい…っ蒼真の…全部…っ」
いつもは外に出してくれていた彼自身の欲。もう二度と戻れないこの時間。すべてを心から感じていたくて頼んだ願い。
『蓮…っ蓮、蓮…れ…んっ』
名前を呼ばれるたびにナカが締め付ける。まるで離れたくないと言わんばかりに、ぎゅっと。行かないでほしいと言いそうなこの口を、言葉を彼の名前に変えて。
『蒼真…!そ…うま…っ!あっ…蒼真ぁ…!』
お互いに名前を呼びながら絶頂を迎えた。いつもなら頭の中は真っ白になるのに、今日はやけに冴えたままで、優しく拭き取ってくれる彼の体温すら忘れたくなくて必死に感じていた。
ふと思い出したのは、リュックの奥に押し込まれた誕生日プレゼント。もう渡すことはないペアネックレス。涙が溢れそうになったけれど下唇をかんで我慢した。
少し休んでから、君はベランダへと歩きだす。禁煙の部屋から出てタバコを吸うために。普段だったら部屋の中から見ているだけなんだけど、少しでも近くにいたくてついて行った。
『ん…どうしたんだよ』
「なんとなく。ねぇ、1本ちょうだいよ」
『お前タバコなんか吸わないんじゃなかったのかよ』
「いいの。最後くらいわがまま聞いてよね」
『…ほら』
彼がいつも吸っているタバコ。先端に火をつけて少し吸い込んで煙をはき出す。
「ケホッ…まず…よくこんなの吸えるね」
『言わんこっちゃない』
きっと蒼真も気付いている。僕がベッドの上で「好き」って言わなかったこと。いつもなら何回も繰り返す愛の言葉を飲み込んだこと。
でも、何も言わない。明日には君は居なくなるから。中途半端な優しさは僕を傷つけるって知っているから。彼なりの最大限の優しさ。
さようなら。大好きだったよ。そう心で呟く。
ベランダでタバコをふかす横顔があまりにも綺麗だった。
Fin.
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