堕ちた愚弄御曹司~性欲は金でなんか満たせない~ (Page 2)

“倉持海運”は曾祖父が立ち上げた貿易会社だ。バブルの時代には大儲け。我が倉持家は、いわゆる上流家庭に成り上がったのだ。

俺、倉持奏(くらもちかなで)は、そんな倉持海運の跡取りとして育てられた。
ひとりっこだったからか、両親は俺が幼稚園に入るか入らないかの小さな頃から複数の習い事を掛け持ちさせ、俺もそれが当然とばかりに何でもこなしていたんだ――中学でイジメに遭い、他人を信用できない人間になるまでは。

22になった今は職に就かず、非行グループの中で『バイトだけじゃ食っていけない』と嘆く仲間にも金をバラまく。そいつらに感謝されると、優越感に浸れるからだ。そのためには、多くの金が必要だった。

「奏、話がある」

いつにもまして疲れを顔に出した親父から呼び出された俺は、2人きりの書斎でショッキングな話を聞かされた。

「中米の運河を走行中の船と連絡が取れない。下手したら事故、あるいは遭難した可能性がある」
「はぁ?」

親父の嫌な予感は的中した。行方をくらましていた船は、船長の操縦ミスにより、座礁事故を起こしていたのだ。この事故により、倉持海運の信用は失墜。損害賠償は数億円にもおよび、上流階級の暮らしをしていた俺は、奈落の底に突き落とされた気分だった。

「お前にやる金はもうない。社員を守ることで精一杯なんだよ――わかるだろ。そんなに欲しいんなら、自分で稼げ」

両親はもう、使いモノにならない馬鹿息子を捨てたも同然だった。
火の車になっている親父のもとに入るわけにもいかず、かといって働き口なんてない。
そこで紹介されたのが『松永秀慧(まつながひでとし)』というおっさんだった。

「松永は古くからの友人でね。中々のやり手なんだ。ウチにも投資してくれていて、気立てのいい奴だから…お前みたいな根性なしにも仕事を与えてくれるらしい」

親父は俺に視線を合わせようとはせずに、その男について述べた。

「奴は今や、“日本の大富豪トップ100”に入るくらいの資産家でね。真っ先に連絡をよこしてくれたんだ。可能な限りの支援をしてくれると…お前を使用人として雇いたいらしい」
「使用人だって…!?」

まさかの言葉に驚いた。我が家にもこまづかいのような奴らが何人かいたが、俺にその雑用係を任せたいと言っているのだ。

「なんでこの俺がそんなこと――」

しなければいけないのか。しかし、次の条件には息を吞まざるを得なかった。

「松永は頭がいいんだが――身の回りのことがさっぱりできない変わった奴でね。結婚にも興味がないらしい。俺と同じ55歳だから…大きな屋敷にひとりで、心もとないんだろう。力仕事があるからと、男手を必要としているんだ」

怪しい。明らかに怪しい話である。

「賃金は、日給10万円を支払うそうだ。足りないようであれば上乗せにも応じてやると言っていたぞ。アイツも相当参っているみたいだったからな…どうだ?行ってみる価値はありそうだろ」
「…」

日給10万。業務内容は、松永というおっさんの家事代行のみ。確かにそれなら学歴ではなく、補導歴ばかりを積み重ねた俺でも楽に稼げそうだ。

「仕事終わりには、アイツの豪邸で好きなだけ遊んでもいいらしい」

とっとと俺と別れたかったのだろう、親父はダメ押しの一言をつけ加えるのを忘れなかった。

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