プライスレス・ラブ
昼間は普通の会社員をしている真鍋タツは夜になると、男に買われる男になる。そんな真鍋は会社の後輩である霧島亮明に、とても懐かれており、正直、困惑気味。だが、霧島も実はある秘密を抱えていて……。会社の先輩と後輩がおりなす、にぎやかラブコメディー。
赤い持ち手のトートバッグを持っているから、とメッセージを送ってスマホの画面をオフにする。
昼間は普通に会社員をしている俺、真鍋タツは、夜になれば、「男に買われる男」になる。
この商売に手を出したのは二年前。
ゲイバーで一人、飲んでいたときに、今、所属しているサービス会社のオーナーと知り合いになった。
二年もの間、俺は不特定多数の男を抱いてきた。
若いのに一時間の制限の中で、これでもかとオプションを付けてくる子がいるかと思えば、奥さんには内緒で男と過ごしたいと高級ホテルの最上階で希望のプレイを実行したこともある。
今夜の客も、二十代という若さにもかかわらず、大枚をはたき、俺を買った。
初めての客だったが、俺の勘じゃ、次はもうないだろうと思った。
*****
朝、八時。
薄く雲がにじむ空の下、傘を持って歩く俺。
今日も、あの新入社員と一緒かと思うと気が重い。
「おはようございます、真鍋さん……」
「ああ、おはよう」
デスクにカバンを置くと、隣の席の係長が声をかけてきた。
先月、長男が生まれた新米パパをしているが、今は目が死んだ魚のようになっている。
原因は。
「真鍋さん、遅かったですね。俺は今日も早く真鍋さんと会いたかったのに」
「霧島……」
係長の隣の席の霧島(きりしま)が、ぷぅっと頬を膨らませて絡んできた。
ピチピチの二十二歳を豪語する、新入社員で、係長の気分を重くさせる原因でもあり、俺の気分をも重くさせる原因。
「俺、思うんですよ。俺と真鍋さんって出会うべくして出会ったんだって!」
「あー、うん」
俺と霧島に挟まれた係長は、デスクを替わろうと何度か申し出てくれたが、真鍋さんと隣同士のデスクなんて卑猥じゃないですか!と謎の反対をする霧島によって現在に至るまでこの状態。
パッと見、霧島の外見は悪くはない。
霧島という苗字もアイドルみたいだし、下の名前は確か。
「霧島亮明(りょうめい)……もう、いい加減にしてくれ……」
「係長!俺は真鍋さんを尊敬してるだけですよ」
「周りに迷惑かけてるんだよ……」
「え~?そうですか?あ、それより、真鍋さん、今日もお昼、一緒に食べましょうね!」
「お、おう……」
係長とのやり取りの後、霧島の強引さに参る一日が始まった。
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