プライスレス・ラブ (Page 2)
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夜。
会社が終わって、一度、家に帰って着替えてから、ホストの仕事に向かった。
今夜は簡単なデートプランが2件だけだった。
事務所に寄り、詳細を確認した。
事務所には年下のホストが待機していた。
「うっす、真鍋さん。今日、デートだけって聞いたけどマジで?」
「マジ」
「いよいよヤバくないすか。固定客どころか指名までなくなりそうじゃないですか」
「いいんだ……俺には、この仕事は向いてないのかもしれない」
「彼氏と別れてやけくそになって、ここに来たときは哀愁漂う男っていうのが人気だったのに、今じゃただの枯れたおっさん……」
「何とでも言え」
年下の男に、枯れてるだの、おっさんだの、終わりですよだの、何を言われても反論の余地はない。
「もったいないなー、真鍋さんみたいな顔だったら、俺、そこらの男も女もみんな釣りあげてますよ」
中学のとき、釣りが趣味だったんですよ、と言う小串が、ああ、と何か思い出したように続けた。
「知ってます?真鍋さん。SNSで流行ってる女装男子の、ケイって子」
トン、トン、とスマホをタップして、一枚の写真を見せてきた。
スマホの中には、薄いブルーのショートボブのウィッグを被り、目元をキラキラにデコって、淡い色で統一されたブカブカなシャツを着ている子がいた。
「突然わっと現れて、あらゆるSNSでイイネ取り放題の子で、ジェンダーレス!年は、お酒が飲めますって話してて、それで好きなタイプは女の子なら『ゆめかわいい子』なのに、男だったら『パッと見は枯れてるよう見えるけど実は部下のフォローが上手で優しくて作った弁当は絶対に何も残さずに食べてくれる人』って、うわー!男の好みが具体的すぎる~!って昨日の夜からネットがずっとざわついてるんですよ!」
「お、おお……そりゃ、すごいな」
「この子、見たことあります?もしかして真鍋さんのことなんじゃないかなって俺、思ったんですけど!」
よく見てください、と渡されたスマホを、穴が開きそうなほど見つめてみる。
メイクも自撮りの仕方も完璧だ。
背景も気をつけていて個人情報流出のヒントになるものもなさそうだし、うーん、見たことあるか?
でも、この目……、どこかで……。
「も、もしかして」
「うっわー!俺の予想、当たったー!」
小串は俺の肩をぽん、とたたいた。
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