プライスレス・ラブ (Page 5)
土産にクッキーやら焼き菓子が入った箱を買い、満足した霧島は、店を出るとハッと何かに気づいた様子だった。
見れば、男がひとり、俺たちを見ていた。
「誰かと思えば、霧島じゃねぇの。なに、今日は男漁り真っ最中かよ」
「うるせぇな」
「あ、なーんだ、一緒にいるの、真鍋さん……でしたっけ?そいつと一緒にいると、評判落ちますよ~?」
「は?おまえ……」
「真鍋さん、行きましょ」
「霧島ァ!会社にバラされたくなかったら、また俺ん家来るよなぁ?いつでも呼んでね?だもんな!」
背後からかけられる声を無視して、霧島はその場から早足で逃げた。
慌てて、霧島の後を追う。
菓子店のカラフルな箱を抱きかかえた霧島は泣きそうな顔をしていた。
「おい、霧島……おまえ、大丈夫か?」
「……あいつ、俺と同期なんです。営業部のエースで……。こんな格好の俺と一緒にいるところを見られたんじゃ、真鍋さん……」
「そういうのはどうでもいいから」
ベンチが並ぶ公園で立ち止まり、とりあえず座れよ、と霧島を落ち着かせた。
「言ったでしょ。俺、SNSで目立つためなら、何でもやったんです。俺、女装してる自分が好きで、どっちかっていうと女の子寄りみたいなところとか、あって……。会社で、あいつにすぐ正体バレました。それで、バイなのも知られちゃって、ネットでバラされたくなかったら言うこと聞けって、言われて」
「無理やり、か」
「わかってましたよ。一回でも寝れば、どうなるかってことくらい。でも、俺にはそれしかなかった……バカでしょ、こんな……」
「俺は、隠すことないと思う。おまえがそんな恰好(かっこう)してるからって誰が傷つく?服の選び方も見せ方もメイクも、それがおまえだろ。あいつの言いなりになんてならなくていいだろ」
「真鍋さん、おっさんの語りですか」
「何とでも言え。どうしようもないおっさんと一緒にいる時点で、おまえも終わりだしな」
「失礼ですね。俺、自分のために、あいつから逃げたんじゃないんですよ」
「ん?」
「会社にバレちゃいけないことをしてるのは、真鍋さんの方ですし」
「んん?」
「女装してるとメイクの腕も上達しちゃって、アッチ方面にも遊びに行くようになったんです。で、真鍋さんが知らない男と一緒にホテルに入って行くところ、見ちゃったんですよね」
「おまえ、よく、それ、隠してたな」
「だって俺は別にそういうので真鍋さんをどうにかしたいって思ってるわけじゃないんで」
「正統派ぶるなよ……逆に怖い」
「付き合ってるわけでもないのに、やめてほしい、なんて言えないじゃないですか」
自嘲気味に笑った霧島は、ちら、と俺の顔を見たかと思うと、菓子箱を自分の膝の上から降ろして、両手を自分の顔の前で握り合わせた。
「だから~!真鍋さぁん!他の男となんかもうエッチできないっ!って言わせる自信があるんで、俺ん家、お泊りしません?」
「急だな」
「好きな相手を落とす自信がなくてデートのお誘いなんかするわけないでしょ。ね?真鍋さんがタチ専、やってるの誰にも言いませんからぁ~!」
一瞬でも、目の前の女装男子を励ました自分がアホみたいに思えた。
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