ミルクコーヒー~君の声に溺れたままで~
人生に退屈していた山本唯都(やまもとゆいと)は、通っていたゲイバーで岡里啓輔(おかざとけいすけ)と出会う。ノリでセックスをしてから、啓輔は完全に唯都にハマってしまったようだった。”ユイちゃん”と呼ぶ彼に、困惑する唯都。複雑な気持ちのまま、二人は今夜も絡み合う――
「ねえ、ユイちゃん」
俺の膝枕の上でニコニコしながら彼は俺を呼んだ。
金髪でピアスは7個、眉毛にもある。
おまけに背中には刺青。
ヤクザじゃないのになんでこんなにガラが悪くなってしまったんだろう。
「ねえユイちゃんてば」
『なんだようるせえな』
俺は強く言葉を吐き捨てて、テーブルの上のマグカップに手を伸ばした。
それでも尚、ニコニコしていてすごく気持ち悪い。
俺には3つ下のセフレが居る。
バカみたいに素直だけど生意気で、俺のことが大好きなヤツ。
ガラ悪いし見た目はヤクザなのに、話し方がすごく優しくて、最初会った時はびっくりした。
「今日ご機嫌ナナメなの?」
『…んなことねえけどさ』
「なに、どしたのさ」
俺の膝枕から起き上がり、彼は俺の頬に手を寄せて見つめてくる。
綺麗な黒い瞳。光が反射して、ハイライトの奥に俺が居る。
「キス、してもいい?」
『…うん』
そのまま唇が重なった。
柔らかい感触の中から、唇をこじ開けて舌が入って来る。
さっき飲んだミルクコーヒーの匂いが俺達の口内を満たして、甘くて溶けてしまいそうになる。
「ユイちゃんと会った時のこと、今思い出した」
『なんでだよ』
「…カルーアミルクの味に似てたから」
俺と啓輔の出会いはゲイバーだった。
ゲイとして生まれてから30年。
人生に面白味を感じなくて、ゲイバーに入り浸るようになってから、俺は啓輔と会い、軽率にセックスして、今でもセックスフレンドを続けている。
俺は啓輔があまり好きではない。
こうやって、恋人みたいなこと言ってくるから。
普通に面倒臭いし、俺には合わない。
ただ啓輔のセックスは好きだ。
俺がしてほしいことをすべてしてくれる。
まるで啓輔の人生の中で、俺だけを愛しているかのような錯覚に陥る。
『女みてぇなこと言ってんじゃねえよ、ったく』
「はいはい、やっぱユイちゃん今日機嫌悪いよね。やめる?」
――でも。
『…やめねぇけど』
――そんなこと、ねぇけどな。
*****
「ユイちゃん、もっとこっち来て?」
一緒に観ていたテレビも、飲みかけのマグカップも置き去りのままで、ベッドに移動した俺達はキスを繰り返していた。
『…ずっと言ってっけど、そうやって呼ぶのやめろよ』
「なんで?嫌?」
『嫌』
「でも、ずっと呼んでるからそんなのできないなあ」
『だからしてる時はやめろって、あっ』
首筋に唇を当てられて声が出てしまう。
俺の話なんて聞いちゃいない啓輔は、身勝手に俺の服を剥いでいく。
啓輔に染められた身体は、少しの刺激でも反応してしまう。
そんなことも知らずに啓輔は、俺に触れて、俺を抱くんだ。
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