非常勤講師との秘密の時間

・作

何となく見かけた小さな喫茶店で、片瀬紫苑はスーツ姿の男に一目惚れした。声をかけることもできずにただ見つめていただけだったが、まさかの場所で再会をすることとなる。胸の高鳴りは収まらず、声をかけてしまう。小さなきっかけから始まる甘く艶やかな秘密の関係…。非常勤講師×大学生の年の差カップリング小説です。

初めて出会ったのは、雨が降り続く季節にたまたま見かけた喫茶店。

憂鬱そうに肘をついてコーヒーを飲みながら窓の外を見ていた彼から目が離せなかった。カッチリとしたジャケット、緩めたネクタイ、うれいげな横顔。僕とは違う大人の雰囲気をかもし出していたその人が、なんだか気になって仕方なかったのだ。

しばらくすると、彼は俺の視線に気付き、ふしぎそうに首を傾けた。ハッとしたように目を逸らし、慌てて適当な注文をする。アイスコーヒーとサンドウィッチ。席は彼から少し離れた位置。パソコンを広げて今日の午後に提出するレポートを書き始めた。気付いた時には、彼はもう居なくなっていて、なんとなく残念な気持ちになりつつも大学へ向かう。

小走りで向かった講義室にいたのは、カフェにいた彼だった。
非常勤講師の園崎さん。それが彼の正体だった。
園崎さんは、僕と目が合うと柔らかく微笑んでくれた。もちろん講義に集中できるわけもなく、彼の声や動きを見ていたんだ。

講義が終わったらすぐに話しかけに行った。

「あの、園崎さん…!」

『君は…カフェにいた子だよね?えっと…』

「片瀬です。片瀬紫苑」

『片瀬くんね。わかったよ。君、講義あんまり聞いてなかったでしょ』

「それは、その…」

『僕に見とれてたのかな?…なんちゃって』

「…そうです。なんか、園崎さんから目が離せなくて…すいません、気持ち悪いですよね」

そう言って目を逸らすと、園崎さんは屈んで俺の顔を覗き込んだ。

『そんなことない。こんなこと言ったら、先生としてはよくないのかも知れないけど…その、嬉しいよ』

意地悪そうに言う彼の姿がどこか艶めかしく見えて仕方がない。
日も暮れてアカネ色に染るその日の講義室はすべてを飲み込んでしまいそうなほどに特別だった。

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