一緒にするだけ、のつもりだったのに (Page 7)
「もうほんとむり、腰死んだ」
「だから、本当にすみませんってば!腰もんでるじゃないですかっ!」
「だいたい初心者相手に無理さしてんじゃねえよっ」
腹ごなしには過ぎた運動が終わったのは深夜1時を過ぎた頃だった。あと6時間後には仕事に就かなくてはならないのに、これでは勤務不可能だ。
「座っててくれれば、今日の仕事全部俺やりますんで!牧さんのお陰で元気モリモリですもん!」
「そんなわけいくかっ!何のためのバディシフトだと思ってんだ!」
思わず大きな声がでてしまった。
安全のためにも、生産管理のためにも2人体制で組まれているのに、それを新人1人になんて任せるのはどんな事情があれ許されない。
「…牧さんに初めて会ったときも、俺のことすごい叱ってくれたんですよ。覚えてないでしょ?」
「へ?お前入社してから、怒られるようなヘマしてないよな?」
「そうじゃなくて、俺が小学生の頃です。工場見学でここに来たことあるんです。そのとき俺が機械に触ろうとして、あなたにめちゃくちゃ怒られたんですよ」
「!?そ、そうなの?」
小学生の工場見学は多いと1年に何度も来ることがあるので、特に意識したことはなかったが…初耳だった。
「半泣きになるほど、怖い顔で怒られて、すごくいけないことをしたんだって思ったんです。そしたらその後、俺が泣いてるもんだから、後からきた他のスタッフの人に怒られてて…ププッ」
「そんなこと、あったような…?」
「あんなふうに大人に怒られたの、それが初めてだったんです。帰りの時間になった時、あなたがまた俺のとこに謝りに来て…大人に謝られたのも初めてだった」
「なんか、情けないとこばっかり見せてるね、俺」
男の子がキラキラした目で俺がメンテした機械を見上げていたのを、ようやくうっすらと思い出した。
「あのとき、機械の説明も一緒にしてくれた牧さんが本当にかっこよく見えて、それで大人になったらここで働きたいって、ずっと思ってたんですよ。まさか、まだ牧さんがここにいて、こんな風になるなんて思いもしませんでしたが」
「そりゃ、お互い様だろ?」
「本当、あのおじさんがこんなに可愛い人だったなんて予想外です」
「っ、可愛いとか、本当やめて…」
腰をマッサージしながら、たわいない会話が心地よい。
歳の差なんて、あってもなくてもあまり関係ないのかもしれない。柳田とは馬が合う。
「あなたの腰のマッサージは、中からも外からも俺に任せてください」
「…前からうすうす思ってたけど、お前言うことがちょいちょいおっさんくさいよな」
「腰痛で動けないおじさんに言われたくないです」
「くそぉ、次の宿直に絶対仕返ししてやるからな!」
「あはは、返り討ちにしてくれますよ!」
10日後の次の宿直シフトの日に、当然のように交わされた次の約束、果たして俺のリベンジなるのか、それとも返り討ちに合うのか。
とりあえずは、それまでに腰を治すことが最優先だった。
Fin.
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