恋人とナイショの海デート
美咲は大企業の御曹司。大事に育てられ、危険から遠ざけられていたために、危険だらけの海で遊んだことがなかった。正確には海水浴場と呼ばれる、にぎわった夏の海で遊んだことがない。そんな美咲には従者であるセラという男がいる。セラは美咲の恋人だが、主従関係であるためおおやけにできない。美咲は邸を抜け出して海水浴場にやってくるが、連れ戻され──。
青い空、青い海、爽やかな海の匂い、燃えるような太陽の日差し。
これこそまさに楽園! 年に一回しかない夏の季節!
特に庶民に人気のにぎわう海水浴場が大好きだ!
「う、海! 海だああああ!!」
声を上げ、腕をぐんと上に伸ばす。
その瞬間、背中からバホッと服がかけられた。
「服着ろ」
振り向けば、180センチもある背の高いハーフの男が俺を見下ろしていた。
海に来たとは思えないスーツ姿に、俺はむすっと頬を膨らませる。
かけられた服を、べりっと剥がして砂浜に落とした。
それをすかさず拾い上げたセラは、また俺の肩に服をかける。
今度はそれをセラへと投げつけた。
「おい」
「やだ」
「美咲」
「やだってば! せっかく海に来てんのに!」
「連れ戻されたくなきゃ、服を着ろ。それを着ても海水には入れる。問題ない」
「脅すなんて最低だ! バカ!」
服を取り上げ、袖を通す。
でもセラは着るだけでは満足せずに、ファスナーまであげた。
「セラ、早く着替えてきてよ。スーツじゃ楽しむこともできないでしょ」
「仕事中だ」
「なら俺のことは『美咲様』と呼べ。そんで敬語を使え」
セラの抱える浮き輪を奪う。
サンダルを脱ぎ捨て、熱い砂浜に足を速めて海に向かった。
が、
「美咲様、やしきに帰りますよ」
「はーなーせー!!」
「仕事なので」
両脇を抱えられ、足が宙に浮く。
セラはデカイし、力が強いから俺を簡単に抱えることができる。
だからこそ、俺の監視役でボディーガードなんだけど。
「美咲、今夜は旦那様もお帰りになる。また次に来ればいいだろ」
「やだやだやだ! この日をずっと楽しみにしてたの! ね? お願い!」
「ダメです」
「セラのバカ! 嫌いになっちゃうよ!?」
「……」
「ほら嫌でしょ? 夜までには帰るから!」
「……」
「今夜は好きにしていいから。俺のこと、めちゃくちゃにしていいからお願い!」
「……。わかった」
「ありがとっ! 大好きだよ、セラ!」
砂浜に足を付き、浮き輪を抱えなおす。
せっかく海水浴場の近くまで来たんだ。
父様にバレなきゃオトガメもないし、遊ばないで帰るとか損なこともしたくない。
なんて、大企業の御曹司である俺にそんなことは許されず…。
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