恋人とナイショの海デート (Page 3)

 一通り挨拶をして、一息つくために一人でホールを出た。

 シャンパングラスを片手にバルコニーに出ると、心地よい風が体を撫でる。

 このバルコニーからは海が見え、水面に月の光が反射する様子は美しい。

 昼間のにぎやかな様子とは別物だ。

 遊びたいとは思わないけど、眺めるのは夜の方が好き。

「…はぁ」

 明日から数日間、父がこの別荘にいる。

 警備がさらに厳重になるから抜け出すなんて不可能。

 遊びたいと言えば貸し切りにするし、皆みたいににぎやかで楽しい海水浴はできない。

「美咲様」

「なんだよ」

 視線も向けずに、近くに来たセラに空になったシャンパングラスを傾けた。

 するとグラスが取られ、すぐさま新しいグラスが握られる。

「旦那様より、お部屋に戻る許可をいただいてきました」

「いつそんなことを頼んだ」

「美咲」

「呼び捨てすん…ん」

 背後から覆いかぶるようにセラが俺の唇にキスをする。

 こんなところで何を考えているのか。

 俺らの関係なんて、許されることじゃないのに。

 誰かに見られたら、セラと二度と会えなくなるかもしれない。

「不安そうな顔をするな。今は催し中だ。誰にも見えない」

 ホールに視線を向けると、分厚いカーテンが窓を覆っていた。

「今夜は好きにしていい約束だよな?」

「…どんだけすれば気が済むんだよ」

 約束なんてないも同然なのに。

 ってか約束を守ってもらってないのこっちなんですけど。

連れ戻されて海で遊べなかったし、昼間だって意識なくすほどしたし、今夜の約束なんて無意味じゃん。

 …でも抱かれてる方が気も紛れるし、また寝かせてもらえばいっか。

*****

 ──ザーッ…ザパーンッ…

 月に照らされる海は静かで、両耳に波音が響く。

 隣を歩くセラを見上げれば、優しく微笑まれた。

「何をして遊びますか?」

「え? えーっと、えっと…」

 まさか海に来るなんて思ってもなかったから、聞かれてもすぐに答えれない。

「世間では砂のお城を作ることも、海水浴場での遊び方みたいですよ?」

 セラはしゃがんで、持参してきたカバンから道具を取り出す。

 砂浜の上にいろんなサイズのスコップやバケツが並べられ、大きなカバンからは組み立て式の椅子やシートも出てきた。

 大きなカバンを持ってきてるとは思ったが、こんなに入っていたなんて気づかなかった。

「セラ」

「どうしました?」

「…なんでもない」

 連れてきてくれただけでなく、一緒に遊んでくれることが嬉しい。

 これならたくさんの人でにぎわっていなくても、セラが一緒なら文句はない。

 でも仕事口調なのは、やっぱり誰かがついてきたってことなのかな。

「見て、セラ!」

「どうしまし…」

「つーかまえた!」

 砂で作った山のトンネルから手を伸ばし、セラの手首を握る。

 すると、その手をセラに握られて引っ張られた。

「あっ!」

 トンネルの上に手をつき、ぐしゃりと潰れる。

 文句を言おうと顔をあげた瞬間、頬にざらついた感触が落ちて唇が塞がれた。

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