恋人とナイショの海デート (Page 5)
……その後……
朝食を終えて、バルコニーに出た。
セラが仕事で呼び出され、俺は一人で海を眺める。
いつもは悲しい気持ちになるのに、昨日のことがあったから心が穏やか。
「美咲、おはよう」
「おはようございます、ハル兄様」
「うんうん、今日も可愛いね」
ハル兄様は俺の隣に来て、柵に寄りかかると突然に声を発した。
「昨日は楽しかったかい?」
「ッ…昨日、ですか?」
「ああ、先に言っておくけど、美咲とセラの関係は知っているよ。俺は美咲のお兄ちゃんだからね。さすがにパーティーにキスマークつけてくるとは思わなかったけど」
「あ、あのハル兄様、それは父様にも…」
「言ってないよ。でもナツも知ってるし、俺とナツの専属の使用人は知ってるかなー」
じゃあ昨日、海にいたのはもしかして…。
「キスシーンを見せつけられたって泣きつかれたよ。ナツなんか今日は寝込んでるしね」
「…すみません」
「何を謝るのさ。君たちは幼い頃から一緒で、とても近しい存在だった。恋心が芽吹いてもしょうがないよ。それに兄ちゃんなんだから、弟のことは見ていればわかるよ」
ハル兄様は俺の頭を撫でて、見返るように海に視線を向ける。
「でも美咲が、庶民の海水浴場に行きたがってたとは知らなかった。兄ちゃん失格だな」
「そんなことありません! 兄様はセラとのことを知っても見守っててくれました。それだけで、もう…」
「今度は兄ちゃんと一緒に行こうか。兄ちゃんとナツと、使用人も何人か連れて行こう」
「でも…」
「セラと二人きりで行かれるよりはマシだからね」
兄様は俺を冷たい瞳で口角を上げる。
「もしかして兄様もセラと一緒に遊びたかったのですか?」
なぜか兄様は肩をガクリとさせて、苦笑を浮かべながら俺を見下ろす。
「うーん。相変わらず可愛い考えをするね」
「一緒に遊ぶのはいいですけど、セラは俺のものですからね」
「あはは、兄ちゃんには婚約者がいるんだよ? セラのことはむしろ嫌いかなー」
好きって言われるのも微妙だけど、嫌いって言われるのも複雑だ。
「とにかく今度は兄ちゃんが連れてってあげるからね。セラとは今後、二人きりで行かないように。約束できるかな?」
「はい! 兄様、ありがとうございます!」
「兄ちゃんにお礼を言うときはなんだっけ?」
「兄様、大好きです!」
「うんうん! 俺も美咲が大好きだよ!」
兄様に抱きしめられ、俺もぎゅっと背中に手を回す。
その時、ため息と一緒にセラの声が聞こえた。
「やられた…」
「セラ、聞いてたよね?」
「はい」
「ならよし。それじゃあ俺は行くよ。じゃあね、美咲」
「いってらっしゃいませ。兄様」
兄様に手を振りながら見送ると、セラが深いため息をついた。
「セラ、どうかした?」
「いいえ。美咲様、そろそろ約束のお時間です」
「わかった」
セラの横を通り過ぎる寸前、手首を掴まれて耳元に息がかかる。
「また二人きりで行こうな」
「行きたいけど、兄様と約束したから…もう海には」
「それは海水浴場だ。島なら二人きりでも行けるだろ?」
「あッ…うん! じゃあまたセラと遊べる?」
「もちろん」
「やったー! 絶対にぜーったいに約束だから!」
「ああ、約束な」
Fin.
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