在りし日の約束
高崎春斗と佐藤涼真は幼いころに結婚を約束した幼馴染み。しかし家庭の事情で涼真は引っ越してしまい、会えなくなる。「春斗が20歳の誕生日、いつもの公園で会おう」という約束をして別れた二人。春斗は大人になった今も、あの約束だけは覚えていた。そして20歳になった日、約束の公園で春斗を待っていたのは…
「春斗が20歳になる誕生日、ここでまた会おう」
そんな約束をして俺は涼真と長い別れの時を迎えた。
*****
誰も待っているはずがないと思っていた。
そう思っていたのにわざわざ約束を覚えてて公園に向かった自分も滑稽だと自嘲した。
でもそこには誰かがいたのだ。
直感で理解した、彼は涼真だと。
「春斗…?」
涼真らしき人物は自分を見て呟く。
「あぁ、涼真、久しぶりだな」
彼はふらふらとこちらに向かってきたと思いきや、突然俺を抱きしめた。
「あぁ…!春斗!」
「ちょっ、涼真!?」
いきなり抱きしめられたことに恥ずかしさを覚え、涼真を引きはがそうとするも、涼真の力が案外強くてなかなか引きはがせない。
「いや離せよっ、恥ずかしいだろ!」
「なんで?僕たち婚約者じゃない、これくらいいいでしょ?」
は?婚約者?もしかしてこいつ、昔の約束を?
俺が困惑していると涼真はようやく離してくれた。
「もしかして、忘れちゃった?」
心配そうに眉尻を下げる涼真に強く出られない。
「忘れてるわけねーだろ、ただ、あんな昔の約束を…って思っただけだ」
「昔と変わらず律儀だねぇ、春斗は」
「はぁ!?変わっただろ!」
そんな言いあいをして二人で顔を見合わせて笑った。
変わらない、こいつもと思った。
*****
俺は今、一人暮らしをしている。
高校を出たあと、専門学校に通いながらバイトをして暮らしている。
1LDKのアパートに住んでいて、一人だとそんな狭さは感じなかったが、流石に涼真を入れると手狭感は否めない。
「殺風景だねぇ、ぬいぐるみとか置かないの?」
「置かねぇよ!涼真じゃあるまいし!」
涼真は昔からかわいいぬいぐるみの類が好きだった。
そのせいで昔は友達が少なかったのだが、今はどうなんだろうか。
そう問いかけるのは失礼に感じられて、口を噤んだ。
適当に料理を出してお茶をしながら今までのことをいろいろ話していた。
ほとんど俺が話していることが多かった。
涼真はあまり昔のことを話したがらず、俺が聞いてもはぐらかされる。
「家で何かあったのか?」
「…!」
図星といわんばかりに涼真が息をのむ。
「そうか」と俺は一言いうとぽつりと涼真が話し始める。
「春斗が変わってなくて安心した」
その一言から涼真の両親が離婚したこと、母親に引き取られるも新しい場所に馴染めなかったこと、母親の再婚相手に虐待されたことをぽろぽろと話す。
予想以上の事柄に俺は絶句していた。涼真がそんなに苦労していたなんて。
「春斗との約束だけが僕の生きる糧だった、だから覚えてくれてて嬉しかった」
その言葉を皮切りに涼真は涙を流す。
俺は涼真を抱きしめるとぽんぽんと背中を叩く。
しばらくして、涼真が泣き止んで「ごめんね」と言葉を漏らす。
「謝んなって、涼真が悪いわけじゃねぇんだから」
「うん…うんっ」
何回も頷いて涼真は笑顔を見せる。
その笑顔を見て俺は安心した。
「で、いつ結婚する?」
涼真の突拍子もない言葉に俺はずっこけた。
「まずは付き合うところからだろ!」
「あはは、そうだね」
俺が顔を真っ赤にしながらいうと、涼真は笑って肯定する。
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