僕は愛する人のためならなんでもできる
お見合いで知り合った旭と修二。辛いときなどに励ましてくれた修二にいつしか旭は恋心を抱き番になることを決心する。「俺のアシスタントとして東京に来ないか」とプロポーズされ上京する旭。そして、修二の隠された性癖を知るが、旭はそれ以上の愛を修二に抱いていた。
僕は、20歳になったらアルファの男性と番(つがい)になることが決まっている。
それは、オメガに生まれてきた人種の定めだ。
高校のときにはじめてヒート期になった。薬を飲んでいても苦しいが、なによりもアルファの視線が本当に怖かった。
しかし、僕にはウェブデザイナーになりたいという夢がある。それなら、ネットでの取引も多いのでオメガに働きやすい。
高校3年生のとき、両親の勧めでお見合いをした。相手のアルファは細川修二というデザイナーをしている男性だった。10歳以上年上で優しそうな男性だった。
相性がいいのは会ってすぐわかった。ヒート期でもないし、薬もちゃんと飲んでいるのに体が熱くなったのだ。それは、修二さんも同じだったらしく、俺の体調を案じて相手が顔合わせをはやく切り上げてくれた。
そこからは、修二さんの提案でネット上での付き合いをするようになった。アルファに対する恐怖も、これからの不安も、僕の夢も、修二さんは全部聞いてくれた。ヒート期で入院しているときも、励ましてくれたりしてとても嬉しかったのだ。
もちろん、デザイナーとしての話も面白かったので、僕は修二さんの人柄にどんどん惹かれていった。そして、オメガに対してすごく理解があり、毎週巣作り用に服を送ってくれた。
そして僕が20歳になった日に、修二さんにネット通話で改めて告白することにした。
「修二さん…僕は…あなたのことが好きです」
「旭(あさひ)君…それは俺がアルファだからかい?」
「いいえ!男性として好きです。僕の番になってください?」
言葉にしたことで改めて修二さんのことが好きなことを再確認した。
少しの間の沈黙。そして、修二さんはパソコン越しに笑顔になった。
「俺を選んでくれてありがとう。よろしくね旭」
僕は、泣きそうになった。修二さんが僕を受け入れてくれたので嬉しかったのだ。
告白した次の日から、修二さんのことが頭から離れなくなっていた。修二さんに会いたい…会って抱きしめてほしい。そんなことを頭の中で考えていたある日、修二さんが思わぬ提案をしてきた。
「旭、俺のアシスタントとして東京に来ないか?」
「いいんですか?」
「旭の両親に、番になることを話したら喜ばれていたよ。俺も仕事が多くなってきたから、人手が欲しいと思っていたんだ。俺のもとでデザインの勉強もすればいい」
「それじゃあ僕は夢を…」
「上京して叶えることができるってことかな」
僕は、さっそく行動をした。アルファと番になるためと、上京するために、転院するための紹介状、誰と番になるかを確定させる書類などを国に提出しなければならない。この書類は、オメガを守るために国が作ったものらしい。
家を出るとき、修二さんは新幹線で迎えに来てくれた。しかも、僕のためにオメガ専用車両があるファーストクラス席を取ってくれていたのだ。
「両親との別れは済んだかい?」
「はい。国の決まりだけど、別れるのは寂しいと言っていました」
アルファとオメガが番になるときは、家族には会わないよう国が決めている。それは、家族愛より番のきずなを深めることを最優先にした結果だ。そのためベータが生まれてほしいと願う親が多い。
「だけど、いままでよく襲われずに育ってくれたと言ってもくれました。そして、いい番が見つかってよかったとも…」
僕はそのことを修二さんに伝えると恥ずかしくてうつむいてしまった。ちらっと、修二さんの顔を見たら微笑んでいた。
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