ドラマティックな愛を刻まれて
人気俳優・鐡一稀(くろがね いつき)と、そのマネージャー・白井優(しらい ゆう)の間には肉体関係がある。鐡のファンや俳優仲間はもちろん、事務所の関係者も誰一人として知らない彼らだけの秘密。白井は鐡との行為について、スキャンダル防止や単なる性欲処理だと思っていたが、鐡の真意はそれとは全く異なるもので…
「白井、今夜泊まっていくだろ?」
長らく続いていたドラマの撮影がクランクアップを迎えたものの、鐡のスケジュールは相変わらず多忙だった。雑誌の取材にドラマの宣伝、バラエティ番組や生放送への出演と、毎日のように仕事は尽きない。当然、マネージャーである白井の仕事も立て込んでいたが、今日は何とか日付が変わる前に鐡を自宅まで送り届けることができそうだ。
「一稀さん、明日も午前中にスタジオ入りですよ」
「こうも忙しいと、お前を抱かずにはやってられないんだよ」
元は大学の先輩後輩同士だった二人が、仕事を共にするようになって五年。そしてこの関係になって、かれこれ二年ほど。始まりがどんな風だったか、白井の記憶は既に曖昧であるが、お互い同意の上での行為なのは確かだった。
「泊まりのセット、持ってきてるだろ?」
「えぇ…まぁ、声が掛かるだろうなと予想はついていたので」
鐡の人気があがるほど、注目を極めていく彼の一挙手一投足。自分が相手をすることでスキャンダルが防止され、鐡の性欲処理がそれなりに済まされるならと、白井はいつも従順に誘いを受け入れていた。
「何だか最近、結婚ラッシュなんだよな。俳優仲間も、学生時代の同級生も」
「アラサーですからね。男性だともうしばらく続くんじゃないですか?」
一稀さんもお相手ができたら早めに連絡くださいね。仕事の調整や今後の売り出し方が変わってきますので。そんな風に白井が言えば、思いもよらない返答が鐡の口から飛び出してきた。
「結婚したいやつならいる」
「…へ? そ、そうですか…なら週刊誌に撮られる前に、教えてもらわないと」
都内の低層レジデンス、高級車ばかりが並ぶ地下の駐車場。内心動揺しつつも静かに車を停めた白井は、鐡の分の荷物も手にして降り立った。コンシェルジュのいるロビーを通り抜け、オートロックを解除して、二人は連れ立って鐡の自宅へと向かう。
「一稀さん、全然わからなかったですよ」
「お前、ホント鈍いな。仕事は優秀にこなすのに、自分のこととなると丸っきり駄目だ」
「どういう意味です?」
「いやだからさ、わかんないかなぁ…俺が結婚したいのは、お前なんだけど」
「…は?」
鐡が冗談を言っているようには到底思えなかったが、白井にとっては完全に寝耳に水だった。確かに好きと言われたことはある。けれどもそれはいつもベッドの中で、セックスの勢いに任せた甘い言葉、あるいはリップサービスなのだと白井は思っていた。白井は学生時代からずっと、鐡に対して恋愛感情を密かに抱いてきていたが。
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