地味な事務員の副業は、可愛いすぎる男の娘でした
ネット上で人気の男の娘『megu*』こと瀬良恵太。そんな彼に執拗なほどアプローチしてくるフォロワーが実は、職場で瀬良をいじってくる厄介な先輩──牧島賢悟だと判明したため、彼を陥れるための計画を企てることに。デートの約束を取り付けてホテルまで誘い出し、下心満載の牧島とツーショットを撮ったところでついに正体をバラした瀬良は…
瀬良恵太、25歳。都内の私大を卒業後、中堅企業の経理部で事務員として働いている。黒髪に眼鏡、背は162cmと低めで痩せ型。学校の成績も見た目も仕事ぶりも、ずっと『普通』と称されてきた。そんな彼が1年ほど前に気付いた、自身の持つ類まれな才能──それは、女装だった。
「今日も写真あげて、っと」
始まりは、軽い気持ちで載せた学生時代の写真がSNSで拡散されたこと。大学の学園祭で行われた、サークル対抗のコスプレ大会。大したフォロワー数でもないというのに思いのほか反応が多く、そしてそのほとんどが女装した瀬良に対して好意的なものだった。
「業者のDMは全部ブロック…仕事っぽい案件も依頼料低いの多すぎる…」
ロングヘアのウィッグにカラーコンタクト、服装やメイクの研究を重ね、いわゆる『裏アカウント』を作成して投稿を開始。自撮りや画像加工、ポージングのスキルも熱心に磨いて活動を続けること半年。気付けば『megu*』こと瀬良のアカウントは万単位のフォロワーを抱えるまでに成長し、いわゆる『男の娘』界隈ではちょっとした有名人になっていた。
「…今日も来てる、来てる」
瀬良には現在、注目しているフォロワーが一人いる。アカウント名は『ken_555』。先々月あたりから、何度もメッセージを送ってきている男性だ。当たり障りのない応援コメントから始まって、最近では半裸や下着姿の写真が届くまでになっている。
「下心丸出しだな、相変わらず」
一方的にいくつも送られてきた画像の中で、瀬良の目に留まったもの──それは、海外ブランドの腕時計だった。盤面のカラーが特徴的なそれは数量限定品で、日本国内での所有者はかなり限られているらしい。
「ほんとすぐ返事くるな。俺のこと好きすぎてウケる」
瀬良はその腕時計に見覚えがあった。職場の営業部の先輩・牧島賢悟がつけていたモデルと恐らく同じもの。牧島は瀬良と部署は違えど、なぜか妙に先輩風を吹かせては絡んでくる、ちょっと厄介な人物だった。容姿が良くてアグレッシブ、武勇伝やモテ自慢は尽きず、瀬良のような地味な後輩を好き勝手にいじり倒す。
「そろそろ会ってみるかな。どんな顔するんだろ」
ken_555は牧島と同一人物、という疑惑。それが確信へと変わったのは、彼のスーツ姿の写真だった。『いま仕事が終わった、今日は色々と大変で…』といったメッセージの際に添付されていた画像は、その日、牧島が着ていたスーツ・シャツ・ネクタイと完全に一致していたのだ。
「日頃の仕返しも兼ねて、ちょっと本気でいこうかな…いい加減、俺のこといじるのやめてほしいんだよね」
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