憧憬の肖像 (Page 2)
「っあぁァ…!…っ、ま…待っ…」
「…ッ…声出すと、外に聞こえるよ」
僕が容赦なく突いたものだから、ついに先輩は耐えきれず大きく喘ぎ声をあげた。
そして、白猫のような美しいカーブを描く背中をしならせる。
きれいに浮き出た肩甲骨が、まるで小さな天使の羽のようで、それをもいで地に堕としてやりたい気持ちに駆られた。
その衝動のまま僕は背中に覆い被さり、肩甲骨へ強く歯を立てる。
「いたっ…痛いって…ッ、なんで…噛むんだ…っ…」
「僕の歯型がくっきりついたよ。…これで、他の人の前では脱げないでしょ…っ…」
肩甲骨に刻まれた、赤いリースのような自分の歯型を眺めながら醜い独占欲を込めて幾度も激しい律動を繰り返す。
手に入れたい。誰にも渡したくない。
そんな思考が、真っ白なキャンバスを黒く塗り潰していくように僕の心を支配する。
「はっ、あお、い…ぁ…あ、もう…だ、め…っ…碧…ッ」
すがるように布を掴み、耐えきれずに嬌声をあげながら僕の名前を何度も呼びながら、先輩はまた絶頂の波に飲まれた。
そして、僕も再び先輩の中に全てを吐き出した。
事後特有の気だるさに、しばらくは動く気になれず二人して布に転がって息を整える。
時刻は進み、気づいた時には橙色の空から紺碧(こんぺき)の空に変わっていた。
隣を見ると燈也先輩も気だるげに双ぼうを閉じ、脱力している。
どさくさに紛れて投げ出された手に触れ、指を絡めた。
つなぎ返してくれるわけではないけれど、拒絶はされないあたり、満更でもないのかもしれない。
そこにつけ込んで、僕はずっとうずまいていた想いをしぼり出すように紡いだ。
「燈也先輩…僕と付き合ってよ…」
まるで子どものわがままのよう。
もしかしたら声が震えていたかもしれない。
心音が先輩にまで聞こえそうなほど早くうるさく鳴って、喉が締めつけられるような緊張感に逃げだしたくなった。
「……俺のアパート、来なよ。…誰も呼んだことないから、少し散らかってるけど」
少し長い沈黙のあと、先輩は僕の言葉に答えはしなかったけれど、そのかわり先輩のアパートに行くことを許してくれた。
家に行くのは、僕が初めて。
これを肯定とみなしていいのかわからないけれど、少なくとも他の人よりはひいきしてくれていると思っていいのかもしれない。
まだ僅かに余韻に浸りながら服を整えている先輩を手伝い、散らかしてしまった部屋を片付ける。
そして事後だからなのか、それとも僕の言葉に思うことがあったからなのか、ほのかに色づいた頬を隠すように僕の前に立ってどんどん先に歩いていってしまう。
それでも、時々ちゃんと僕がついて来ているのか何気なく確かめてくれるのが可愛くて、僕は浮かれた足取りでその華奢(きゃしゃ)な背中を追いかけた。
Fin.
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