真夏の夜の映写室

・作

小さな町の小さな映画館。三代目館長を受け継いで、こじんまりと運営をしている不思議な雰囲気をまとった紫苑(しおん)。小学生の頃からこの映画館に通っていて、大学生になってここでアルバイトを始めた翔。紫苑には恋人がいたが三年前に亡くなり、ずっと思いを寄せていた翔は…。

日が落ちても汗が流れ落ちる夏真っ盛りの夜、その日の最終上映の時間が訪れた。
まるで、何百年も海底に沈んでいた宝箱を開けるような重厚感のある音と共に閉まる扉。
カラカラと乾いた音と共に映写機が動き出し、スクリーンに光が灯った。
光の中で埃(ほこり)が舞い、まるでダイヤモンドダストのようにも見える。

「紫苑さん、お客さん全員入りましたよ」

「うん、ありがとう。こっちも大丈夫だよ。上映終了までゆっくりしようか」

狭く薄暗い映写室に男二人、膝をつき合わせて小窓からシアター内をぼんやりと眺める。
やがて問題なく上映されているのが確認できると、紫苑さんは今映している映画のパンフレットをおもむろに読み始めた。

紫苑さんは髪色と同じダークグレーの細縁眼鏡をかけていて、時々眼鏡の位置を直す細く白い指がなんとなく儚げ(はかなげ)ながらも妖艶に見える。
黒髪、肌も少し日焼けてる俺とは正反対。
毎回上映する映画のパンフレットを読むときのその仕草を、俺はどうしても目で追ってしまうんだ。

*****

今回の映画の題材は、亡くした恋人の面影を追って主人公が各地に旅に出るというもの。
正直、紫苑さんと似てるじゃないか、と思ってしまう。

紫苑さんには三年前、付き合っていた男の人がいた。
俺も何度か会ったことがあって、優しく接してもらった記憶がある。
俺は小学生からこの映画館に通っていて、その時紫苑さんは高校生でまだバイトだった。
紫苑さんの同級生だったその人はよく映画館に遊びに来ていて、時々手伝いもしていた。
その時、人目を盗んでこっそりキスしていたのを俺は未だに覚えている。
幼心に紫苑さんに思いを寄せていた俺は大きなショックを受けたが、それでも彼に会いたくて嫉妬に駆られながら通い続けて今に至る。

そして、いわゆる恋敵が亡くなった今、俺は紫苑さんへの気持ちを抑えることができなくなってきている。
その人のことは嫌いじゃなかった。
嫌いじゃないが、ふつふつと腹の底から沸き上がってくるドス黒い嫉妬心には抗えない。
でも、その人の死を利用しようとしているんだ。
我ながら最低だと日々悶々と頭を抱えている。

*****

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