カンチガイ恋愛 (Page 6)
翌朝、ブーブーッという振動する音で目が覚めた。
佐久間の腕の中にいて、もぞもぞとベッドを抜け出すとスマホを手にする。
その画面には『社長』という文字が。
重い腰に手を添えながら電話に出ると、泣き声が混じった怒声が聞こえた。
『りゅっ、りゅううとおお!』
「朝からどうしたんだよ。また子どもに嫌いって言われたの?」
こっちは身体を張って疲れてるってのに、朝から元気なことだ。
『言われてねえよ! あれからお前が心配で、電話かけてんのに出ねえし、俺、俺…!』
「え、寝てないの?」
『そうだよ! ホテルから動いてねえみてぇだし、警護隊を送ろうかどうしようか悩んで…悩んでええ!』
「ちょっ…ええ? 泣かないでよ…。抱かれろって言ったのお前じゃん」
『だか、抱かれたのか!?』
「あ、ああ。まあ…な」
なんで俺はこんな恥ずかしいことを朝から報告しなきゃいけないんだよ。
『…やっぱアイツ、引き離すだけじゃ済まなかったか』
「…え?」
『安心しろ。地方に送ってやるから』
「抱かれろって言ったのお前じゃん!」
『まさか本気でヤルとは思わなかったんだよ!』
「ヤルとか言うな!」
思わず大きな声をあげてしまい、視線をベッドに移す。
すると案の定、佐久間は起きていた。それも不機嫌な目をして。
「誰と話してるんですか? 琉人さん」
「お、おはよう。社長と電話してるんで少し静かに…」
「はあ? なんで社長なんかと!」
そのとき、ブツッ…と電話が切れる音がする。
「え!? …おいちょっと!」
そしてすぐさま『ピロンッ』とメッセージが届いた。
≪警護隊出動≫
「させんでいいわっ!」
わざわざメッセージとかナニ考えてんだよ!
高速でメッセージに返信をする。
そのとき、ずっと放置していた人に手首をつかまれた。
「朝から仲良さそうですね。社長の前だとあんなにくだけて話すんだ」
「そりゃあ昔から仲はいいからな」
ボンッとスマホをソファーに投げる。
手首をつかまれたまま、ベッドに腰をかけて足を組んだ。
「昔? 昔から付き合ってたんですか?」
「キモチワル。兄弟だよ、兄弟」
「…はい?」
珍しくマヌケな顔をする佐久間に俺は笑いかけた。
「どこでどう不倫関係にしたのかわかんねえけど、俺と社長は兄弟関係だから」
「じゃ、じゃあ二人の愛のある関係って…!?」
それどっかで聞いた気がするんだけど。
あぁ、昨日、アイツの言ってたことか。
「兄弟愛のある兄弟関係」
「じゃあ誰に仕込まれてんですか!?」
「仕込まれてないっての! 初めてっつっただろ!」
そう言うと佐久間は口をパクパクとさせる。
そして俺を抱きしめながらベッドに倒れた。
「早く言ってください」
「言ったっつうの」
「…もっと強く主張して」
「それより言うことは?」
「申し訳ありませんでした」
「よろしい」
佐久間の髪を撫でてやると、抱きしめられる力が強くなった。
「琉人さん、好きです。ずっとずっと好きでした」
「ああ、知ってる」
「付き合ってくれませんか?」
「そうだなぁ…」
抱かれたってことは、俺もこいつを好きになる可能性があるってことだろう。
さすがに社長を守るために抱かれるとか、俺もそこまで良心じゃない。
「…ふわぁ。とりあえず、寝よう。寝てから考える」
佐久間の胸に頭をすりよせて、まぶたを閉じる。
「琉人さん…?」
「残業続きで寝てないんだ。少しでいいから、寝させ、て…」
答えなんて考えるまでもない。
『初めて』を捧げた相手なんだ。付き合ったっていいだろう。
「琉人さん、好きです。おやすみなさい」
温かい腕に抱かれて、俺は安心して眠りについた。
Fin.
最近のコメント