カンチガイ恋愛 (Page 2)

 終業後、俺は誰もいないフロアで一人で背伸びをした。

 明日は休みだし、疲れをとるためにも美味しいものを食べて帰ろう。

「久しぶりに焼肉でも行くかなー」

「それ俺もご一緒していいですか?」

「え? ああ、佐久間。まだ残ってたのか?」

 声がして、顔をあげれば佐久間が立っている。

 もう夜の9時だ。金曜日のこの時間まで残るなんて、なにか問題でも起きたのだろうか。

「帰ろうとしたら電気がついていたので、松川さんいるかなって戻ってきました」

「そうだったのか。準備するから待ってろな」

 焼肉も久しぶりだが、佐久間と飯に行くのも久しぶりだ。

「おまたせ、行こうか」

「はい」

*****

「松川さん、好きです」

「んっ? あぁ、俺も好きだぞー。お前は俺の後輩の中でもとびっきり優秀だからなー」

 肉を口に運びながら、佐久間を見上げる。

 佐久間は真っ直ぐ俺を見ていて、その視線に昨夜の告白現場を思い出す。

(好きって…好き? 恋や愛の…好きか?)

 そう考えると、真剣な目をしている意味に納得する。

 でもこいつが男を…というより、俺を好きな意味がわからない。

 ここ二年は別部署でほとんど会うこともなかった。

 以前だったらなんとなくわかるけど、なんで今なのかがわからない。

「お前、俺が好きなのか?」

「はい」

「…素直でよろしい。でも悪いが、お前の好きには答えられない」

「好きな人がいるんですか?」

「そういうわけじゃないよ。今は仕事で忙しいから、恋愛をしている時間はないんだ。──ほら、食え」

 焼きたての肉を佐久間の取り皿に乗せる。

 俺にとって佐久間はデキる後輩だ。

「松川さん、好きです」

「その話は終わりな。いくら言われても、俺は──」

 佐久間が顔を乗り出してきて、俺の唇にキスを落とした。

 サラサラの髪が頬に触れ、平たい唇が角度を変えてもう一度重なる。

「…琉人さん、好きです」

「わかってるって」

「そんなに社長が好きなんですか?」

 …ん?

 社長…?

「なんでそこで社長が出てくるんだ?」

「好きなんですよね? あの人、既婚者ですよ」

「いや、知ってるけど…」

「じゃあ知ってて不倫してるんですか。そんな人よりも俺のほうが未来ありますよ」

 こいつはいったいなにを言ってるんだ?

 佐久間に未来があるのは当然だが、それは社長だって同じで未来はある。

 まあ二人に関係なく、俺にだって未来はあるんだけど。

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