かわいそうで、かわいいもの
猟師・レイは、親の跡を継いだものの、巷にはびこる半人半獣の存在・獣人によって獲物が食い尽くされかけ、うだつの上がらない状態が続いていた。そんなある日、獣用の罠にかかっていた獣人・ライルを見つけ、レイはある邪な考えを思いつく。
「…あーあ。今日も収穫ゼロか」
山からの帰り道、俺は思わずそう独りごちた。
19歳で親の跡を継いで猟師になってから1年目、なんとか食いつないできたが最近は特に不猟続きで商売上がったりだ。
普通に山を歩いていても獲物自体が見当たらないので、それならと罠で色々工夫してきたが今日も1匹もかかっていなかった。
「獣人さえいなければなぁ、全く…」
獣人ーーそれは、半人半獣というこの世の理から外れた忌まわしい連中のこと。
人間の見た目に耳やしっぽ、牙が生えていたりと様々なタイプがいるが、習性自体は獣の癖に知能は人間と同等。だからこそやっかいで、なかには人の住む村の中で人間のふりをして暮らす器用な奴らもいるようだ。
狩りが上手くいかないのは、近年この辺りに獣人が増えたせいで、奴らに獲物を食い尽くされかけているというのが主な原因だった。
そんな背景もあり、獣人の存在は人々には好ましく思われていない。しかし、なまじ人とほぼ同じ外見をしている分、彼らの殺生の禁止は暗黙の了解だった。
つまり獣人という存在は、猟師である俺に限らず、世の中の人間に忌み嫌われる憎い邪魔者というわけだ。
「…ん?鳥…?いや、兎か?」
考え事をしながら歩いていると、ふいに道脇の草むらから何かが動くがさがさという音がした。
雑草を掻き分け少し押し進んでみる。ひらけた場所に出た。そして、そこが前にトラバサミの罠を仕掛けたポイントであることを思い出した。
「…あれは…人かな」
シプレの木が群生しているあたりに、何かが蠢くのが見える。一瞬、俺の罠に間違ってかかった怪我人かと思い駆け寄るが、すぐにそれが違うものだとわかった。
丸みが少ない身体つきから男だと判断出来る。少年と青年の狭間のような背丈で、人間と同じ服を着ているものの、頭には獣のような黒い大きな耳が生えており、同じ毛色のしっぽが尻から生えている。
明らかに獣人だった。
「…だ、だれ…っ」
獣人は、俺の足音に過敏に反応して、黒い耳をピンと立ててこちらを振り返った。
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