竜宮北別館は男の花園!?~世話焼き乙彦の家臣仲人計画~ (Page 2)
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「まだ着かねぇのかよ、亀之助。早く美しい乙姫様に会いてぇな…」
「申し上げにくいのですが、我が宮殿の主はその…美しいというより、“粋”な方でして…」
竜宮の使いとして陸へやってきたと話す海亀――“亀之助”と俺は3日3晩行動を共にし、古くからの友人のように打ち解けていた。
ただ、彼に竜宮での暮らしぶりを問えば…何かを隠すように口ごもってしまう。
(乙姫様って、家臣を助けた浦島を孤独な末路に追い込むような奴だから…扱いが難しいのか?けど、うまくいけば逆玉の輿に乗れるぞ!)
「宮殿が見えてまいりましたよ、磯浦様!」
心なしか弾んだ亀之助の声で我に返る。彼としては、主から与えられた役目を無事に終え、安堵している…といったところだろうか。
「なぁ亀之助。“磯浦様”なんて堅苦しい呼び方は無しにしようぜ。俺たちもうダチだろ」
「磯浦様と私がお友達?そんな…滅相もございませんっ!」
彼を友人だと慕う俺の感情は、どうやら一方通行だったらしい。“ダチ”の言葉に亀之助は委縮し、首を横へ振っていた。
「なんだよ~照れんなって!」
「磯浦様、お止めください…くすぐったいですよぅ」
亀之助を手懐(てなず)けようと、邪心をもって身体を撫で回してやると、甲羅だけでなく、首や前足に後ろ足…いたる部分が傷だらけであることがわかり、手を引っ込める。
「わ、悪りぃ…」
「磯浦様が謝られることは何もございません。私は貴方様を主の前にお連れすることができて、嬉しいのです」
そう話す彼は茹でダコのように真っ赤になっていた。
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「よく来てくれたな、磯浦殿。我が家臣を救ってくれたこと、誠に感謝しておるぞ!」
(“乙姫様”じゃねぇのか…)
亀之助の誘導で絵本通り海底にある煌びやかな宮殿内へ入ると…待っていたのは美しい乙姫様なんかではなく、酒が入った様子で豪快に笑う青年だった。彼は付近を漂う鯛やヒラメなんかの回遊魚に目配せしたかと思うと、パチンッと指を鳴らした。
すると、俺が絵本内に吸い込まれたこと以上に信じられない状況となった。なんと魚たちが一斉に人間の男へと姿を変え、薄手の浴衣をはだけさせ、舞を披露し始めたのである。さらに驚いたのは…銀の長髪を1本に束ね、丸眼鏡を掛けた華奢な男――亀之助の姿だ。
あちこち鬱血し、傷だらけではあるが、彼ほど美麗な男を俺は見たことがない。主である乙彦を差し置いてもいい男である。
「亀之助…お主、美しい肌が台無しではないか!父の代から竜宮に仕えているお主でも、地上への旅は苦労したであろう。本当にすまない…」
「そんな…。乙彦様は私がいつまでも子を宿さないから――“相手”ができるよう、使いへ出してくださったのでしょう?教育係の血筋が途絶えてしまうこと、申し訳なく思っております」
(え…?)
俺は目を見開いた。亀之助の頬を伝う涙を乙彦が手の平で拭い、躊躇なく唇を重ね合わせ――甘噛みし始めたのだ。
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