竜宮北別館は男の花園!?~世話焼き乙彦の家臣仲人計画~ (Page 7)
(この痛み…)
俺がこの世界へ入った際のスタート地点は、本当に亀之助の背の上に乗ったときだったのだろうか?いや違う。本当は、物語の冒頭――彼が砂浜で虐げられているときに出会っていたのである。
「…思い出していただけました?その身を挺(てい)して私を庇ってくださったのは、浦島太郎と仰る方ではなく…磯浦様なのですよ」
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「もう1ヶ月も経つのですね」
「あぁ…。亀之助、体調はいいのか?」
「ご心配なく。それに今回の産卵は苦痛ではありません。腹のナカには“命”が宿っているのですから…。きっと元気な子を産んでみせますよ」
『愛する“殿方”と私のね』と笑みを零した亀之助は、俺の手の平を膨らんだ腹の上に乗せた。
亀というのは交尾後1ヶ月ほどで産気づく。亀之助は今この瞬間まで人間の姿のままでいてくれたのだ。
「無理はするなよ。5分経っても音沙汰なけりゃ、助けに行くからな」
「磯浦様ったら気が短いですね。私は100個もの卵を産むのですから…貴方様も父親となる覚悟をもって2~3時間はお待ちください」
最近では母となる亀之助に、強気で叱られてしまうのもしばしばとなっていた。
「…産み終わったらすぐ呼んでくれよ?土を被せるくらいは手伝いたい」
「わかっております…では、行ってまいりますね、磯浦様」
こうして亀之助は懐かしささえ感じる海亀の姿へ戻ると、ひとり産卵場への道を歩きだした。
きっかり3時間後。居ても立っても居られず、彼の元へと駆け寄った俺は顔中砂だらけで伏せていた愛しき人を抱き起こすと、尾の下に朝日に照らされて眩く光るいくつもの白き宝を確認した。
その後、乙彦から出産祝いだと渡された玉手箱により、亀之助と卵から孵った子亀たちが真の人間となるのだが――それはまた別の話である。
Fin.
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