1億回でもキスしていいよ (Page 3)
セックスがどれだけ盛り上がろうとも。恥ずかしいところを見せ合い、触れ合い、奥深くまで身体を重ねあっても。
ユキトはキスをしてくれない。
いや、もちろんセックス以外の場面でなら、唇を重ねることはある。
デートの最中、ロマンチックなシチュエーションでとか。帰り際に、バイバイのキスとか。
でも、「いい雰囲気」になったとき。そのキスがセックスの延長線上にのぼったとき、ユキトはキスをしなくなる。
…そんなにしたいなら「キスがしたい」と言えばいい。それはわかっている。でも、俺には苦い過去があった。
実を言うと、俺はかなりキスが好きだ。
日常生活でも、セックスの最中でも、たくさんキスがしたい。してほしい。
その気持ちが、たぶん、他の人よりも強すぎるんだと思う。
昔付き合っていた男に、言われてしまったのだ。
「正直、お前のキス、しつこい」って。
ショックだった。恥ずかしかった。そっか、俺のキスってしつこいんだと、そのときに初めて知った。
好きな人に、そんな風に…気持ち悪いとか、嫌だとか、思われるのは、辛いから。
だから、俺はユキトに、何も言えないでいた。
だけど。
優しいユキト。大好きなユキト。
馬鹿な俺にだってわかるくらい、こんなに愛おしげに抱いてくれる。
愛されてるって、ちゃんとわかるんだ。それが嘘じゃないことは、ユキトと過ごした日々が教えてくれる。
ユキトなら、ほんの少しくらい…唇を触れ合わせるキスくらい、許してくれるんじゃないか。
そんな気持ちが、頭をもたげてしまった。
「ハルくんっ…」
ユキトが、少しだけ体勢を変えた。
抱き寄せられた瞬間、顔と顔が、また近くなる。
瞼が気持ちよさそうに震えているのが見えるような距離だった。
俺は、ゴクリと喉を鳴らした。
今だ…と、思った。
今なら、自然にキスができる。まともに付き合っていて、セックスをしてるんだったら、十人中十人がキスをするタイミングだった。
俺は、ありったけの勇気を振り絞った。
身を乗り出し、ユキトの唇に、顔を寄せた。
でも……。
ユキトは、それを、避けた。
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