豹変×主従
執事の春間(はるま)は当主の明臣(あきおみ)に仕えている。凛々しく育った明臣だったが、春間の前では態度が異なった。今でも泣き虫なのは変わらず、春間に甘える明臣を他の使用人は知らない。ある一言が原因で、春間は朝から明臣を豹変(ひょうへん)させてしまう。春間だけが知っている夜の姿へと──。
光がさす廊下を歩くのは、齢二十三歳のこの家の新当主。
彼が歩けば、使用人たちは手を止めて頭をたれる。
通りすぎた彼にメイドたちは吐息をこぼした。
「明臣様、本当に素敵になられて」
「あんなに幼かったのに、今じゃ当主様よ」
「凛々しいお顔だったわね」
「泣き虫でしたのに、そんな面影もありませんわ」
彼女たちの声を聴きながら、私は心の中で息をつく。
(見た目だけは立派になられましたね)
彼があの頃のままだとったら彼女たちはどんな反応をするのだろう。
それから私と過ごす夜の姿も…。
*****
「失礼いたします」
我が主、明臣様のお部屋へと入ると、呼び出した彼の姿はなかった。
呼び出したのだから、自室にいることは間違いない。
「明臣様」
しかし返事はない。
もぞ…と動くベッドに、視線を向けると布団がもっこりと膨らんでいた。
我が主は朝からベッドに潜り込んでいるらしい。
明臣様のベッドへと近づき、布団へと手をかける。ビクッと布団の中で動きがあり、私は勢いよく布団をはいだ。
「ひゃわわっ…!」
お布団の中から出て来たのは、ちんまりと丸くなる可愛らしい当主。
さっきまでの表情は一つもなく、頬を赤く染めて瞳をうるませていた。
「明臣様、まだおやすみの時間ではありませんよ。」
「うぅ…だってぇ…」
くしゃりと顔をゆがめた明臣様は、髪の毛をいじりながら身体を起こした。
「あんな褒められちゃったら照れちゃうし…。僕、あの頃のまま泣き虫だから…」
「そうは言ってられないでしょう。貴方が望んでその地位を手にしたのです。いつまでも泣き虫のおぼっちゃまでいられたら困ります」
明臣様はぐすんっ…と可愛らしく目元を拭う。
私よりも大きくなられたのに、あざとさを出されても違和感がない。
さすがは蝶よ花よと育てられたおぼっちゃまだ。
メイドたちには見せられないな…、と心の中で思いながら、ベッドへと腰を下ろした。
すかさず明臣様は私に抱き着いて、背中に顔をぐりぐりと押し付ける。
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