はなのいろかおる
自分の体を売って生活している薫は、10年同じ仕事をしている大ベテラン。お客様に恋愛感情はご法度とわかっているが、毎週水曜日の21時に必ず予約を入れる関谷を好きになってしまい…。風俗男子×社会人サラリーマンの切なく甘い恋愛小説。
俺の名前は薫。
ゲイ風俗で働いている。
勤めて10年になる。
この業界ではベテランだ。
ゲイ風俗といえどお客様も従業員さまざまだが、唯一気になるお客様がいる。
ざわざわと騒がしい商店街を抜けて、足早に歩けば閑散とした路地裏につく。
建物の集合体の前でいつも少し、ため息をついてはホテルに入る。
扉を開けば笑えるときと、凄く嫌な気分になるときと、極端に感情がうごめくこの仕事のなかで、彼は俺の胸を高鳴らせる顧客だった。
彼の名前は関谷と言った。
彼のメガネを外す瞬間が好きだ。
フチに少し茶色がかかった、黒ぶちに、少し厚みのあるレンズ。
シャワーを浴びた彼がメガネをテーブルに置く瞬間で、俺の胸は高鳴る。
心拍数が上がって、仕事だということを忘れてしまいそうになる。
真面目な目をしてベットに入る。
もう、何度も彼とは身体を重ねている。
水曜日の21時、決まったホテル。
俺は仕事上、たくさんの男性と体を重ねているのに、彼に会って手を引かれれば、いつも初めて恋をした気分になる。
“コト”を終えた後でも、彼は恋人の気分をくれる。
「薫くんは、爪がきれいだよね。」
「爪?」
「僕ね、ネイルの仕事をしているんだ。これ、薫くんにプレゼント」
小さい瓶に入った液体は、ドロッと中で揺れた。
赤く、赤よりも黒く、黒よりも紫。
曖昧なカラーをした液体は、光が当たるとキラリと光る。
――そうだ、あれに似ている。
甘くて、桃よりも何倍も小さい、プラム…プラム色だ。
ホテルの薄暗いライトに小瓶をかざして眺めていると、関谷さんは俺の手を掴んだ。
「貸して」
甘い香りが鼻をかすめる。――ジャスミンの香りだ。
キャップを外して、筆を取り出す。
俺の爪に、プラム色の線を施していく。
ゲイではあるが、女装には興味がなかった。ニューハーフではないし、トランスでもない。
俺は、女になりたいわけではない。
なのに、塗られた爪が、あまりにも美しくて、自分がラッピングされた気分になった。
また一つ、彼のことを好きになる。胸が張り裂けそうで、涙が出そう。
スパダリ×ボーイ
受けが切なくて可愛いかったです。
続きが気になります。続編をぜひ読みたいです。
もよこ さん 2020年12月29日