一晩だけのお願い
和泉のことが好きだった聖は、和泉が好きなことと、ホストとして出勤する最終日のアフターを自分にくれないかとお願いする。しかし、和泉の恋愛対象が女性であることなのは知っており、一晩限りの関係をお願いした。
新宿歌舞伎町、そこが僕の職場。いつもの通りに17時に出勤する。
「おはようございます」
「おはよう聖(ひじり)。きょうも元気だな」
話しかけてくれたのは、先輩であり、この店No.1ホストの和泉(いずみ)さんだ。
そして、きょうが最後の出勤のホストでもあった。
和泉さんの夢を昔聞いたことがある。おしゃれなバーを開いてオーナーになることが夢だと嬉しそうに話していた。
「きょうが最後ですね…」
「そんなに寂しそうな顔をしないでくれ。俺の夢がかなう第一歩目なんだから」
そういうと、和泉さんは俺の頭を軽く撫でた。
「僕…、少しは和泉さんに近づけましたか?」
「前にもいっただろ?俺とお前とではタイプが違う。俺は、爽やかを売りにしていて、聖は可愛さを売りにしているんだ」
僕は、顔にコンプレックスがある。ぱっちりと大きな目に、体毛が薄い。顔も角ばっていないし、身長が低く細身である。
これでも、毎日筋トレをしているのだけど、筋肉がつきにくいのか、効果が目に見えない。
そして、僕の恋愛対象は「男」である。しかし、この見た目なので、いつも受け役にしか回れない。本当は自分でも愛したいのにと日ごろから思っていた。
しかし、ホストクラブに遊び半分で行ったとき、そこにいた和泉さんに僕は一目ぼれをしたのだ。
切れ長の目に、少し角ばった顔、大きい手に、高い身長。そして、相手を気遣う心配りを見て、僕は和泉さんのとりこになった。
僕は、さっそくそこのホストクラブに面接に行った。そして、入店してから、和泉さんにたくさんのことを教えてもらった。
「一週間前の約束、覚えていますか?和泉さん?」
「わかっているよ。きょうの俺のアフターは、お前にやるよ、聖。だけど、お前も約束を守れよ?」
一週間前、僕は和泉さんに告白をした。そして、一晩でいいから僕を愛してほしいと頼んだのだ。
和泉さんは優しいから、断れないことがわかっていた。だから、僕は告白ができたのだ。
そして、和泉さんはある条件を出した。
「わかっています…カールトンホテルの最上階をとっています」
「わかった。誰の名前を出せばいい?」
「和泉さんの名前をいえば通すようにいっているので大丈夫です」
「わかった。じゃあ、後でな」
そして、僕と和泉さんとの最初で最後の夜が始まるのだ。
深夜2時。一度自分の家に帰り準備をする。
白色のシルクのワンピースを身にまとい、メイクをしてホテルに向う。
これが、和泉さんの条件だ。きょうまでは、和泉さんはホストなので、女性を喜ばす存在でありたい。それが、彼の希望だった。
だから僕は、和泉さんのために、女よりも綺麗な女になろうと、この一週間努力したのだ。
ドキドキしながらホテルのインターホンを押す。
「…聖か…今開けるな」
ドアを開けた和泉さんは、僕の姿を見て目を見開いた。
「…和泉さん…僕…変かな…」
「…いいや…綺麗だよ…びっくりした…」
和泉さんは僕の腰に手をまわし、部屋の中にエスコートした。
「やっぱり、和泉さんは慣れていますね…」
「ホストをしていたんだ。これはもう癖かな?」
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