それに名前をつけるなら、最愛。 (Page 2)

10歳の頃からずっと隣にいた、カイの弟。

言葉なんて交わさなくても互いの考えが読めるぐらいに、ずっと一緒にいた兄弟。

だから今日、カイはここに来たのだ。

「俺さ、今、自分で暗示かけてるんだよね」

「暗示?」

「ん。催眠術みたいな」

「なにそれ?」

リクが茶化すように笑うのを無視して、カイは大きく息を吸ってから、うん、と小さく頷いた。ピリッと室内の空気が張り詰める。

「この部屋の中にいる間は、自分の中で蓋してた気持ちを全部さらけだせるんだ。で、部屋から出たら全部消える。これまで通り。元通り」

「は…?」

リクが頭を持ちあげてカイの顔を真正面から見てきた。

至極真面目な顔で、カイは言う。

「だから、リク。お前も一緒にかかってくれよ」

わかってた。

多分きっと、互いをわかり過ぎていた。

わかっていたから知らないフリをして。わかっていたから仲のよい兄弟であろうとしていた。

パチパチ、と瞬きをしたリクの瞳から、ボロボロと涙がこぼれおちる。

「なんで今っ…そんなこと言うの」

「リクっ…」

カイの手がリクを抱きしめる。腕の中から逃れようとするリクをさらに強くだきしめて閉じ込めた。

嗚咽をもらしながら、リクはカイの腕に拳をうちつけてくる。

「結婚するから清算したいみたいなやつ?ズルイよ、カイくんはっ!なんで僕…残して結婚とか」

「ごめん…」

ダダをこねる弟とそれをなだめる兄。

それを捻じ曲げようと動いたのは、カイだった。

グスグスと泣きじゃくるリクの頬に手をそえて、キュッと引き結ばれていた唇にキスをする。
ピタ、とリクが固まったのがわかった。カイは角度を変え、触れているだけのキスが深くなっていく。

「んっ…ふ」

抵抗しようとしてるのか、たいして強くない拳でリクが胸を叩いてくる。それを簡単に掴みかえすと、カイはそのままリクの身体をソファに押し倒した。

カイのキスを受けいれたままのリクの瞳から、ボロボロと零れる涙がソファを濡らしていった。

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