エレファントの輝き (Page 2)
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―――翌日、放課後に寮の自分の部屋に帰るとエマニュエルが一糸まとわず突っ立っていた。
「な、なんで、はだかでいるの」
「え?君の部屋の鍵が開いていたから」
エマニュエルが扉を指差す。
「答えになっていないよ、エマニュエル」
「僕を描くっていうから、そうゆうことなのかな、と」
エマニュエルは僕に手を差し出す。差し出された手は色白く、陶器のようだ。
手から腕、肩、見事な曲線美だ。繊細な作家によって創られたかのように美しい。
僕は生唾を飲み込んだ。
確かに、彼の身体や顔は妖艶で、自分のものにしてしまいたくなるような―――――
「ふふふ、こっちにおいでよ」
エマニュエルの声で現実に引き戻された。一瞬おぞましい自分の思考にゾッとした――――彼を悪魔のように食べたくなってしまった。
馬乗りになって首筋に噛みつき、そう、悪魔のように…―――なんてことだ、僕は人間だ!悪魔に魂を売ってなんかいない!
「――大学でも制服があるなんて珍しいね」
「ああ、この学園の古き伝統らしいよ。“3年制”のとこもね」
「へぇ…」
フリルの付いた白いシャツに、タイトな黒のパンツ。そして胸元には細いタイ。
タイは学年で色が別れていた。
新入生は赤、中学年は緑、高学年は青だ。
「僕らのタイの色は、赤か」
「何が言いたいの?」
「このへんてこな制服を着てくれないかいエマニュエル。僕はこの変な伝統の制服を着ている君が美しく描きたいと思った」
「ははは!服を脱がされても着させられたのははじめてだよオーギュスタン!」
エマニュエルはベットに倒れて笑い転げた。
「君の勝ちだね、最高の口説き文句だ。大人しく僕は服を着るとしよう」
エマニュエルは脱ぎ捨てられた制服を拾い上げて袖を通す。
僕は何故か“もったいないな”という情欲が頭によぎった気がしたが、頭を振って雑念を振り払った。
「ただし、課題に協力するためには一つ条件がある」
「条件?」
「あぁ、僕の話を聞いて同情してくれ」
エマニュエルは動き始める。窓の外を見たり、ベットに腰掛けたり、鏡を見て金色の毛をくるくる指で巻いて遊ぶ自分の姿を見たり。
そんなことを僕の部屋でしながら、彼は語った。
聞けば、彼は、学園で体を売っているというではないか。
「あまり褒められた行動ではないね」
「僕には見てのとおり、“見た目”しか取り柄えがない。まぁ悪いことだとわかっているよ」
「ははは、君は見た目どおり繊細な人物だよ」
エマニュエルはギョッとした表情を見せた。
僕は気にせずエマニュエルのデッサンを続ける。
「君は、僕を昨日知ったばかりだろ?」
「まぁね、でも何万人の人を描いてきたんだ。それに」
「それに?」
「それに、君は僕に描かれている間とても緊張している。指通しを絡めたり握ったり、手元は落ち着かなく、微かに唇が震える。
全体的に体が中央により寄りたがってる。肩をすぼめて脚を閉じて、手も体の中心」
近寄るエマニュエルの胸をトン、っと軽く拳で小突いた。
エマニュエルは変な顔で僕を見つめる。
「ふふ、いいんだよ。ありのままの君を描きたいんだ」
エマニュエルはフンッと鼻を鳴らすとニヤリとした。
「ははは、本当に君は面白いね、君とは親友になれそうだ」
「奇遇だね。僕もそう思っていた」
そしてまた、エマニュエルは僕にとびっきりの笑顔を見せた。
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