エレファントの輝き (Page 9)
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「僕、大学を辞めるよ」
「…決めたんだね」
「うん。仕事をする。おじいちゃんの家を継ぐよ。
牛や羊の世話をして、街にチーズや牛乳を売り込むよ、この美貌を優位に使ってね」
「ははは、君らしいや」
「ねぇ。なんで僕が初めて自分の体を売っていると打ち明けた時に驚かなかったの?」
「あぁ、僕は街でいろんな人の肖像画を描いて歩いていたんだ。貴族から、娼婦も描いたよ。君のように身体を売る男性もいた」
エマニュエルがじっと僕を見つめる。その瞳は吸い込まれそうなくらいに美しく、濁りがない輝きを持っていた。
「人生は長い。僕の知らない世界がたくさんある。いろんな考えの人間がいる。
僕の考えは、到底及ばないよ。それは彼らの人生だ。僕がわかるわけがない。もちろん、君の考えも。ね」
「僕が、その道を選んだことを否定しないってこと?」
「否定?とんでもない。君が考えてやったことだ。でも、興味がないわけじゃないよ。
僕は本人にはなれないけど、絵を描いてその人の人生を少しだけ覗く…垣間見ることができる。だから、まぁおこがましいかな」
「…ねぇ、オーギュスタン。エレファントが輝くのを知っている?象牙ってさ、産毛が太陽の光に当たってキラキラ光るんだ」
「はは、僕が君を初めて見たときもキラキラ輝いていたよ、“エマニュエルエレファントくん”」
「…オーギュスタン、君は名前のままの人物だね。君は、僕にとってのエレファントだった。
エレファントの赤い目玉が手に入れば、お金持ちになれるって昔、教えてもらったんだ。
これは君にあげるよ。オーギュスタン。前に僕を描いてくれた報酬だ」
アメのように赤く美しく透き通るガラス細工にように丸い―――
汽笛が鳴る。
「…オーギュ、オーギュスタン。僕の心が、もしまた大人になったら、また会ってくれるかい?」
「もちろんだよ…!」
列車が発車する。エマニュエルの眉が下がっている。美しい彫刻のような顔だ。
「さようなら、オーギュスタン。さようなら」
僕は彼のエレファントを握りしめ涙を必死にこらえ、手を振った。
端麗で繊細なエマニュエル。
誰もが彼の虜になる。エメラルドグリーンの瞳、陶器でできているのではないかと疑うほど滑らかな肌。
手招きする指はいつも白く細く太陽に透けそうで、ずるい。
君はみんなを虜にした。僕のことも。
―――エマニュエル。
「卒業したら、迎えに行くよ。二人でする酪農も素敵じゃないか」
エマニュエル·モロー
彼の容姿は彫刻で彫られたかのように美しく端正な顔立ちをしていた。
さくら色の唇から漏れる声は、小鳥のさえずりのように美しかった。
成人している。だが、少年のような肢体を携えて、美しいブロンドの髪が風になびいてキラキラと光った。
Fin.
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