背徳が愛を乞う
中学教師のトクナガマサルは、7年前に担任を受け持ったクラスの生徒、ムラタヒロヤのことがずっと心に引っかかっていた。そんなヒロヤと再会したのはゲイ風俗だった。話をするだけのつもりだったマサルに対し、ヒロヤは「仕事させてよ」と言い、マサルをベッドへと押し倒した…
その写真を見た瞬間、マサルは画面をスクロールしていた手をとめた。
「ムラタ…?」
口や鼻は手で隠されているけれど、なにを考えているのかわからない、深い海の底のような黒く大きな瞳は、マサルの知っているムラタヒロヤの瞳だった。
中学教師という職について10年、自分が受け持ったクラスの生徒の顔や名前はほとんど覚えているが、その中でも1人、マサルにはずっと心の中に引っかかっている生徒がいた。
それがムラタヒロヤだった。
ヒロヤはマサルが教職について3年目に受け持った中学3年生のクラスの生徒だった。無口で友達もおらず、いつも1人。そして、大きな瞳でいつもどこか遠くをジッと見つめていた。そのせいか、他の生徒達より大人びて見える、不思議な空気をまとった生徒だった。
とくに問題を起こすこともなく、授業態度も真面目で、成績も飛びぬけていいわけではないがそれなりに優秀。そのヒロヤの卒業後の進路は、就職だった。そして、三者面談にヒロヤの親がやってくることは1度もなかった。
複雑な家庭だというのは、事前に生徒情報として聞いていた。だとしても、高校進学はするべきだとマサルは思ったのだ。
けれど、マサルがなにを言ってもヒロヤが進路を変えることはなかった。
先輩教師に相談してみても、親も本人も進学の意思がないのなら仕方ない、家庭の事情に首を突っ込みすぎるのもよくない、と暗に放っておけというアドバイスしかされなかった。
そして、そのまま、ヒロヤは中学を卒業してしまったのだ。
そのヒロヤとおぼしき人物の写真に、マサルの心臓はドクドクと激しく鳴り、背中にはひんやりと嫌な汗がつたった。
震えた指先で、予約のボタンをタップする。
*****
「ムラタ…ムラタ、ヒロヤ、だよな?」
マサルの問いかけにヒロヤは、表情を変えずジッとマサルを見つめてきた。そのまなざしに圧倒されないように、ゴクンと生唾を飲んで、マサルは続ける。
「お、覚えてるか?中学3年の時の担任だった、トクナガマサル…だけど」
そう告げれば、ヒロヤは目を伏せた。マサルが腰掛けている2人がけの小ぶりなソファの後ろにあるベッドに移動してボフっと腰をおろし、ヒロヤは足を組む。バスローブのあわせ目からはみでた彼の素足は透き通るように白く、細かった。
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