背徳が愛を乞う (Page 2)
「せんせーって、ホモだったんですか」
成人男性にしては高いその声色は、中学の頃とそう変わっていなかった。
「え…?」
咥えたタバコに火をつけて、ヒロヤは嘲笑するように、片方の口角だけをつりあげた。
「サイトから予約でしょ?一般人が簡単に見つけられるものだとは思えないけど」
今日、ヒロヤに会うと決めた時点で、隠せることでもないだろうとマサルは思っていた。ソファから立ちあがると、ヒロヤの方に顔を向ける。
「確かに…僕はゲイだ。それは否定しないよ。けど――…」
「アレですか。教え子との禁断の関係みたいなのに興奮するってヤツですか?そんな風に生徒のことをいやらしい目で見てるんだ?」
まくし立てるように話すヒロヤの目は、冷ややかで、マサルに対しての嫌悪感がヒシヒシと伝わってくる。
「ち、違っ!違うよ!ゲイなのは認めるけど、生徒に対してそんな感情は持ったことないし、今日も、セックスが目的で予約したわけじゃないんだ」
形式上、個室に入る前にシャワーを浴びてお互いにバスローブ姿になっているけれど、今日の目的はそれじゃない。ただでさえキッチリ整えていた襟元をもう一度しっかりと正しヒモもグッと締め直すマサルを見て、ジュ、とヒロヤはタバコを灰皿に押しつけた。
「ここ、ゲイ風俗だけど?」
「そ、それは知ってる。最初は、利用目的でサイトを見てたんだけど、ボーイの写真の中に君がいて、僕は、君が中学を卒業してからどうしてたのか、それが気になってて――…」
「で?ゲイ風俗で働いてる姿見て笑いにきたの」
「違うよ、そんなわけない」
マサルはヒロヤの前まで歩みよると、その隣に座る。使い古されたベッドのスプリングがギッと小さく鳴いた。
「あのとき、ムラタの進路を僕は何度も反対して、けれど結局ムラタは進学をしなかった。僕は、進学のことしか考えてなかったから…。けど、もっと違う形で力になれたんじゃないかって…」
「せんせーの助言無視して中卒で、今はゲイ風俗のボーイだから?マトモに就職してないのも中卒だからだって言いたいわけ?」
「そうじゃない、そうじゃないけど…サイトで君を見つけたとき、心配にはなった。ゲイ風俗という仕事がどうってことじゃなくて…元気にしているのか、顔がみたいと思ったんだ。でも、よく考えたら知りあいがきたら困るよね、ごめん」
ハハッと困ったように首の後ろをかいてマサルは静かに笑った。
「その顔」
ヒロヤが言う。
「その顔。昔と同じ」
「え?」
「俺にしつこく進学の話をしてきてた時も、そんな顔してた」
意外だとマサルは目を丸くする。
ヒロヤの記憶の中にちゃんと残っていたということに。
進学の話をいつもどうでもよさそうに突っぱねていたヒロヤがこちらの表情を見ていたということに。
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