今宵、天使は兄に抱かれる
血のつながらない兄・大樹と3年ぶりに再会した薫。しかし状況は最悪で、パパ活相手とホテルに入るところだった。怒った兄にホテルの連れ込まれる薫。しかし兄の目的は説教ではなく薫のカラダだった…。すれ違い続けた兄弟の、Hで純粋なラブストーリー。
僕をベッドに放り投げるとき、兄さんは悲しそうな顔をしていた。
「兄さん…やめて…っ」
荒々しく服が剥ぎ取られる。
一糸纏わぬ姿にされるまで、こめかみに浮かんだ血管を見ていた。
「もう、しないから…怒らないで…」
自分でも驚くほど、発した声が弱々しかった。
「薫、まだこんなことやってんの?」
「…今月、お金足りなくって」
「それで、あんなおっさんと寝てるのか?」
兄さんから目を背けると、僕はシーツを握りしめた。
僕だって、好きでこんな生活をしているわけじゃない…。
あと少しだけお金が貯まったら、きっぱりやめるつもりだったんだ。
なのに、男とホテルに入るところを兄さんに見られるなんて…。
「お前は昔から、俺を頼らないよな」
ギシッとベッドが軋(きし)み、兄さんが僕に覆い被さった。
「俺が嫌いか?」
「そういうわけじゃ…」
厚みのある大きな手が、僕の顎を掴む。
「こっち見ろよ、薫」
正面に向き直った僕に、兄さんが顔を近づけた。
「兄さん…」
切れ長の奥二重と釣り上がった眉毛、その間にある懐かしい傷跡。
こんなに近くで兄さんを見るのは久しぶりかもしれない。
腕や肩は筋肉がもり上がり、以前よりも男らしい体つきになっていた。
「俺の気も知らないで。本当に、お前は…」
兄さんの手が、僕の頬を撫でた。
次に首、鎖骨、胸、脇腹…。
ゆっくりと手が下りていく。
「ぁっ…兄さん…やめ…っ」
下腹部に到達するころには、体が火照り始めていた。
「相変わらず、白くて細せぇ体」
兄さんの手が太ももを往復する。
薄い茂みを撫で上げて、それからペニスの根元に触れた。
「ぁっ…ンンっ」
ビクンッと、思わず腰が跳ねた。
兄さんの顔が、また悲しそうにゆがんだ。
「あの頃、無理矢理にでも抱いておけばよかった」
僕よりも弱々しい声で、兄さんがつぶやいた。
*****
14歳の夏、新しい母と兄ができた。
大樹は連れ子で、少ない荷物と一緒に僕の家へやってきた。
学ランから伸びる長い手脚、生え始めたヒゲ、少し甘いワックスの匂い。
年は2つ違いだったが、僕よりうんと大人に見えた。
僕はすぐに、新しい兄に好奇心と憧れを抱いた。
しかし兄の方は僕に無関心で、まるで新しい家族を避けるように、部活とバイトに明け暮れていた。
思春期の僕らは微妙な距離のまま成長した。
高校を卒業すると兄さんは家を出た。
僕は成人するまでは実家にいたが、パパ活が親にバレて家を追い出された。
きっと兄さんの耳にも入っただろう。
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天使
大変Hでした。最後にタイトルの意味がわかって良かったです。
ナナシ さん 2021年3月25日