今宵、天使は兄に抱かれる (Page 5)
「ずっと薫が好きだった」
「うそだ…だって兄さんは僕を避けて…」
「逃げてたんだ。自分の気持ちに気づいてからずっと…」
ふりしぼるような声が続く。
「俺は怖かった。俺の想いが、新しい家族を壊してしまうと思った。そしたら1番に傷つくのは薫だ…。だから、俺は家を出たんだよ」
「そんな…」
「ごめんな。あの頃は、それが精一杯だった」
兄さんがやさしく、僕の頭を撫でた。
途端に、涙が込み上げた。
「ずっと、こんなふうに頭を撫でてほしかった…」
「薫…」
「僕、兄さんともっと一緒にいたかった…!」
積年の想いがあふれ出す。
僕は兄さん背中に腕を回すと、厚い胸に顔を埋めた。
「今までごめんな。兄として俺を慕ってくれる気持ちに応えてあげられなくて」
兄さんが僕をきつく抱きしめる。
男らしい大きな肩が、言葉を吐くたびに震えていた。
「でも、きっとこれからも俺は薫を弟として見られない。今日だって、薫を前にしたら理性も何もかも吹っ飛んで、無理矢理、お前を…」
「兄さん、泣かないで」
「本当にすまない、薫」
耳元で鼻をすする音がする。
ゆっくりと顔を上げると、今度は僕が兄さんの頭を撫でた。
「僕も兄さんが好き」
兄さんは一瞬目を丸くしたが、すぐに悲しそうに笑った。
「無理すんなよ、こんなことされて好きもへったくれもねぇだろ…」
「うそじゃないよ、兄さんが好きなんだ」
「薫…」
「兄さんが好き…ずっとそんな気がしてた。でも僕は子どもだったから、この感情が憧れか恋か、わからなかったんだよ」
僕は兄さんに手を伸ばすと、頬の涙を拭った。
「兄さんに抱かれてやっとわかった。僕は兄さんを愛してる」
僕は兄さんに口づけると、涙の味がしなくなるまで唇を貪った。
「薫…俺も愛してる…」
僕らのキスは、しばらくしょっぱいままだった。
*****
「天使みてぇだな」
髪についた羽根を摘んで兄さんが言った。
「ふふっ。僕のこと?」
僕は体を起こすと、フーッと羽根に息を吹きかけた。
あれから僕らは再び繋がり、兄さんは3回、僕は数え切れないほど果てた。
「初めて薫を見た時、同じことを思った」
「そんなこと思ってたの?」
兄さんは僕の髪を撫でながら、懐かしそうに目を細めた。
「お前、ブカブカの制服着ててさ。袖から見える手が白くて小っこくて、俺が守ってやりたいって思った。細い首とか長いまつ毛とか、全部昨日のことのように覚えているよ」
「ははっ、確かにあの頃の僕は天使だったかもね。今は汚れちゃったけど…」
すると、兄さんが僕のおでこにキスをした。
「薫は今もきれいだよ。お前はずっと俺の天使だ」
それから僕の髪に羽根を戻すと、今度は唇に甘いキスをした。
Fin.
天使
大変Hでした。最後にタイトルの意味がわかって良かったです。
ナナシ さん 2021年3月25日