失恋して実る恋もある (Page 4)
「…つーか教授ってなんだよ」
「研究室で抱き合っていたでしょ。それも膝の上に乗ってさぁ」
「膝…? あ、ああ? ああ! アレか!」
古い記憶をたどって思い出して声をあげる。
勘違いしている志貴には悪いけど、アレはそんなことじゃない。
「夜勤とか、泊まりになるとああして栄養補給しなきゃダメなんだと」
「…は?」
「昔っから兄貴は俺のことが大好きだから、ああして励ますと喜ぶんだよ」
「な、なんなんですか! それならそう言えよ!」
「はあ? なに怒ってんだよ」
急に情緒不安定になった志貴に俺は首を傾げる。
セックス中に昔の話を引っ張り出してきて、不機嫌になって怒って落ち込んで…とか意味がわからない。
志貴は脱力したように倒れると、俺の身体を抱きしめた。
「志貴?」
「それを見たから俺、遊びまくったんですよ」
「え?」
「あんたのことがずっと好きだったから」
なにを言われているのだろう。
志貴は顔をあげて、鼻がくっつくくらい近くで話をする。
「俺だってあんたとずっと一緒にいたのに、あんたはアイツばっかり目で追ってさぁ。それも恋する女みたいな目で」
「ちょっ…え? どういうこと?」
本当にわからない。
急になにを話されているのだろうか。
「志貴が俺を…好き?」
「そう言ってるでしょ」
「え、なんで…?」
学生時代の後輩で部活が一緒だったけど、特別なにか一緒にしたわけでもない。
好きになってもらえるきっかけなんて全く…。
「なんで俺を…痛っ」
その時、むにっと両頬を引っ張られた。
「にゃ、にゃにしゅん…んんっ」
ちゅっ…と唇が重なり、不機嫌な顔が視界に広がる。
「あんた、俺のこと知らないだろ」
「にゃ、にゃ…?」
「ずっと一緒だったって言ってるよな!?」
それは言われた。けど、ずっとなんて一緒にいたっけ?
そもそも志貴とは…、あれ?
頬を引っ張る志貴の指をどけて問いかける。
「おまえといつから一緒だったっけ? 確か、高校は一緒だったよな? 大学も一緒だったし…」
「俺『も』ずっと一緒だってば! そもそもあんた、俺の名前知ってるわけ!?」
「志貴だろ?」
「苗字は!」
「はあ? 苗字? 苗字って…」
ブチンッ…と何かが目の前で切れる音がした。
こめかみにまで浮かび上がった志貴の血管に嫌な予感がする。
「あんたがなんで後輩の中でも俺だけ『志貴』って呼んでると思ってんだ。俺と『門倉』が同じ苗字だからだろうが!」
「…へ?」
「俺の名前は門倉志貴! あんたが好きな門倉佑志(ゆうじ)の弟だ!」
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