先輩、好きです。

・作

仕事終わりに後輩の紫月と料亭に、食事に行った響也は彼に告白される。そして目が覚めると紫月とつながった状態でホテルのベッドの上にいた。理由があって響也と無理やりつながった紫月。しかし傷ついてしまった紫月を抱くことを拒んだ響也は『次』の約束をして…。これは二人が結ばれるまでを描いた純愛BL──。

 22時。ようやく仕事が終わり、グーンっと背筋を伸ばす。

 最後まで残っていたのは管理職の俺だけで、金曜日だったし他は帰らせた。

「今日は飲んで帰るかー」

「それ僕も行っていいですか?」

 元気よく廊下からひょこっと顔を出したのは、別部署の後輩、紫月(しづき)。

「お疲れ。久しぶりだなー」

「お久しぶりです! あ、先輩もお疲れ様でした!」

 紫月は後ろを振り向きながら誰かに挨拶をした。

「『も』ってなんだ。って…まだ響也(きょうや)も残ってたのか?」

 俺の同僚で、彼の上司が廊下から同じように顔を出した。

「お疲れー。お前も飲みに行くか?」

「おっつー。いや、俺は遠慮しとく。遅くなったから彼女の機嫌とらねーと」

「大変だな」

「まあ、でもこうして遅くなっても、待っててくれる奴がいるってのはいいもんだぞ」

「それはよく聞く」

「だろ? また今度行こうぜ」

「おー」

 カバンを持ち、廊下に出るとオフィスのカギをかけた。

 それから三人で会社を出て、駅で別れると紫月が常連だという料亭に入った。

*****

「かんぱーいっ!」

 紫月の嬉しそうな乾杯の音頭に俺も笑みを浮かべながらグラスをぶつける。

 相変わらず可愛らしいというかなんというか…。

 今は部署も変わって会うことも減ったし、飲みに行くことも減ったけど、紫月がいると相変わらず癒される。

「そういえば響也先輩って彼女さんとかいるんですか?」

「残念ながらいないなぁ」

「そう、なんですね。狙ってる子も…?」

「いないって。ここで立ち止まれないしな」

「…そういえばうちの御曹司ですもんね」

「お前だっていいとこの坊ちゃんだろ? 聞いたぞー、部長の娘と見合いしたって」

「え、あ…! もちろんお断りしましたよ! でも…なかなか了承してくれなくて」

「え? ああ、そうなのか…。大変だな」

「はい。俺、好きな人…いるのでどうしても断りたくて」

 赤面して『好きな人』がいると言った紫月はさらに癒される。

 癒し系動物を見ているような…なんか、本当に癒しを与えてくれるのが彼の長所だ。

 いや、そんなことよりも紫月の悩みについてだ。部長の娘との縁談。

 しかも断れないなんて強制的すぎるし、業務ではないのだから強要できる問題でもない。

「次の日曜日も会うことになっているんです。多分、その時にはもう…」

 紫月は仕事ができるし、常に笑顔で空気も読めるから上の人間にも気に入られている。

 だからこその縁談なのだろう。我先に、と部長が無理に動いてしまったのかもしれない。

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