罪と蜜

・作

大飢饉が襲った中世のヨーロッパ。そんな時代の中でも愛想がよく、信徒にも信仰をしていない者にも評判のいい若い神父がいた。ある日を境に、神父の元に盗人が懺悔のために通うようになった。
毎日その懺悔を聞いているうち、神父は自らの内にあるほの暗い感情を抑えられなくなり、それを盗人にぶつけるようになる。

私が神学校を卒業して3年ほど経った頃、この国は大飢饉にみまわれた。
人々は食料を求め争う者もいれば、国に数ある教会に助けを求める者もいた。
私が勤めているこの教会もそうだ。
助けを求めてきた者は、みな平等に助ける。
「隣人を愛しなさい」という神の教えに従って。

窓ガラスが小刻みに震え、音を立てるほどの強い風が吹くある寒い夜、その青年は私の前に現れた。
そろそろ宿舎に戻ろうかと思っていたときに教会の扉が開き、そちらを見るとボロ布のようなマントのフードを目深に被った青年がうなだれて立っている。

「おや、どうかされましたか?」

「…懺悔がしたい」

用件を聞くと、風の音にかき消されてしまいそうなほど小さくかすれた声でそう一言つぶやいた。
悩める「隣人」を救うのが私の勤め。
彼を懺悔室に誘導すると、少し覚束ない足取りで着いてくる。

懺悔室は、相手の顔が見えない。
だからこそ、誰にも言えない内に秘めたものを告白することができるのだ。

「ここには、神と私とあなたしかいません。神のいつくしみを信頼し、あなたの罪を聞かせてください」

「…食べ物を…盗んだ。…弟がいて…弱ってるから、何か食わせないとと思って…でも、罪悪感に押しつぶされそうで…」

「盗み自体は善行とは言えません。しかし、あなたは弟さんの命を救ったのです。主(しゅ)もそれを見て、あなたを許します。祈りをささげ、清めましょう」

私はそうお決まりのセリフを伝え、懺悔を終える。
彼は小さく礼を口にして懺悔室から出ると教会を後にした。
なんとなく少し気にはなるが、一人に干渉せず私達は平等でいなければいけない。
その日は、私もこの懺悔を最後に宿舎へ戻った。

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