温泉よりも熱い

・作

出張先の楽しみである温泉。野坂は仕事の疲れを癒すべく露天風呂につかっていた。部下の高田と共に。しかし高田は唐突に野坂に下ネタな感想を告げた。高田はさらに大胆な発言をこぼし、逃げようとした野坂の腰を掴んで引き留めた。高田の行動はさらにヒートアップしていき……。

 出張の楽しみといえば、温泉。
 しかも今回はまさに温泉の有名なところに飛ばされたから、たとえここが山のなかで交通に不便だったとしても、仕事がはかどらなかったとしても、宿に帰ればその鬱憤(うっぷん)が吹きとぶ。

 今回の宿もなかなかよい。露天風呂はやや狭いが、竹で囲まれて、鹿威し(ししおどし)があって時折カコーンといい音を鳴らす。反響が湯を振動させるようで風情があった。

 温度も俺好みのやや熱め。ちゃぷ、と湯をすくうと柔らかめの水質なのがわかる。

「野坂さんのちんこ、めっちゃ大きいですね」
「……え、ああ。そうかな」

 突然の投げかけ。いまどき小学生でもそんなことを、こんな場所で口に出して聞かないだろう。

 この男、高田はこの春から俺の下に配属された、ノリの軽い男だ。

 仕事自体は問題なく、むしろ手がかからないくらい要領よくやってくれるが、この馴れ馴れしさが俺は少し苦手だ。

 それより、上司の下半身の感想を伝えるだなんて、ずいぶんとキモの据わった新人だ。

「彼女とやるとき、痛がったりしません?」
「いや……、ないかな」
「野坂さん、さっきから素っ気ないんですね。まあ今日疲れましたよね。なんか俺たちが来るべき内容じゃなかったっていうか」

 俺はあまりべらべら喋る人間と付き合うのが得意ではない。

 彼女がいたのももう15年くらい前が最後だ。

 女と付き合うのも俺は性に合わなかった。かといって男と試しに付き合っても、ソイツか悪かったのか楽しい思い出にはなっていない。

 ──ちゃぷ。

 人と付き合って慰めあうより、温泉にでも入って一人で気を慰めているほうが気がラクだ。

 もっとも重要なのは一人でいること。

 だいたい、なんでコイツは俺と一緒に入っているんだ。

「聞いてます?」
「ああ、ごめん。聞いてなかったかな」
「じゃあもう一度言うんですけど、野坂さんのちんこ触ってみてもいいですか」
「……お前、その態度は改めた方がいいよ」
「だって野坂さんゲイなんでしょ」

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