熱を持った病人

・作

季節も変わり目。野坂優希(のさかゆうき)が帰宅すると、待っていた同居人は英文の紙を逆さまにして読んでいた。風邪で熱に浮かされたその同居人は、彼にとって憧れであり、また愛する人でもあった。そんな同居人を寝かせるためベッドルームに連れていくが、少し様子が変だった。「どうしたの?」と聞いてみると……。

 季節も変わり目の時期になってきた。
 野坂優希は昇っていくエレベータのなかで豪快にくしゃみをしながらそう思った。大学に残って勉強すれば、寒い夜道を帰らなくても済むのだが、彼には家に帰りたい大きな理由があった。

「謙さん、ただいまぁ」

 黒い扉の玄関をガバリと開け、同居する森村謙一にそう帰宅を告げる。いつもならリビングの部屋から顔をひょっこりだして出迎えてくれるのだが、今日はその姿が見当たらなかった。

「あれ。謙さん?」

 靴を脱ぎすて、明かりのついた廊下を進んでいく。するとリビングのソファに謙一の後ろ姿があった。

「おかえりなさい、優希くん」
「もう、居ないかと思ったじゃん」

 振り返って微笑む謙一に、密かにほっと胸を撫で下ろした。
 謙一は優希の先輩にあたる人だ。出会いは病院。バイクの事故で救急搬送された優希の処置をとったのが、2人の関係のきっかけだった。滅多なことでは病院に行かなかった優希は、謙一のその信頼できる処置と、なにより穏やかで人当たりがいいのにちょっと抜けているところが胸に刺さり、猛アタックと共に同じ医者を目指すことを志した。医大に合格したら告白しようと、そう決心し実行したのももう3年は前のことだった。

「そんなに夢中になって、なに読んでるの?」

 眼鏡をかけて英文が羅列された紙を読む謙一の隣に、優希はどさりと座る。覗き込んで見てみたが、一瞬自分の英語力はこんなにもなかっただろうかと不安になった。しかしそれは書類が逆さまになっているだけで、読めないのも仕方がないと安堵した。

「謙さん、それは新しい研究?」
「え?」
「とぼけないでよ。もう。どうしちゃったの? そんなのいいから、俺の相手をしてよぉ」

 ああ寒かった、と外の空気で冷えた体を寄り添わせた。いつもなら軽くあしらうはずなのに、それすらもなかった。優希は不審に思い、手のひらを謙一の額にあててみた。

「あつっ。謙さん、風邪ひいてるじゃんっ」
「そんなことないですよ。僕は元気です」
「どこが元気なのさ。ほら、ベッド行くよ。もう、その紙は置いて。逆さまなのもわからないなんて、重症なんじゃない?」

 ぐいぐいと腕を引く優希。「そんなことはない」と繰り返す謙一。しかし弱った体は若者には勝てず、謙一はベッドルームへと連れていかれた。

「薬も飲んでないの? 食べ物は? もう、しっかりしてよね。お水とかも持ってくるから、謙さんは大人しく寝てなよ」

 体温計とスポーツドリンクの用意もしないとな、と優希はテキパキと謙一を布団の中に押し込んだ。肩まで布団をかけ、部屋を出ていこうとする優希。しかしそれは謙一が袖を掴んで制止されてしまった。

「どうしたの?」

 振り向き謙一を見ると、彼が言わずとも優希は察した。それは疲れた日やお酒を飲んだ日や、幸せな記念日の夜に向けられる視線と同じだった。

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