ライバルはスマートフォン
付き合い始めて二年半、同棲してからは二年。若干のけん怠期を迎えている瑛(えい)と春巳(はるみ)構ってほしい瑛に対して、そっけのない春巳は今日もソーシャルゲームに夢中で…瑛はスマートフォンから恋人の関心を奪うため、ある手段に打って出た。
「ん、ん…」
頭を上下させるたびに鼻から甘ったるい吐息が抜け出ていく。
ソファに浅く腰かけた恋人の投げ出された脚の間にうずくまるようにして両膝を突き、その中心に顔を埋めた瑛(えい)は眼前でそそり立つ恋人の性欲の証を口いっぱいに頬張った。
片手を内ももに添え、もう片方の手で陰茎の下半分から根元を擦る。
そして、上半分から先端にかけては窄めた唇で扱きながら唾液を絡めた舌で舐め上げた。
「ぁ、は…、ぁ――っ」
頭上から響く掠れ声を聞いて、瑛は上目遣いに恋人の春巳(はるみ)の様子を伺った。
今、春巳はどんな表情をしているのか…それを確かめるつもりでいたが、あいにく、下を向くその顔は垂れさがる黒い前髪と眼鏡が邪魔をして、瑛の位置からはまともに見ることは不可能で――。
けれど、半開きの唇から漏れ聞こえる小さな喘ぎと、口腔内で硬度を増す陰茎の熱さが今の春巳の状態を十分に伝えてきた。
それに、なによりも…ふいに、ドサリとソファの上に滑り落ち、瑛の目端に映るもの。それは、春巳がずっと手に持っていたスマートフォンだった。
ほんの一瞬前までスマホを握っていた手は瑛の頭に添えられ、先をねだるかのように黄色く染めた髪を撫でてきた。
勝った――! と、ようやく満たされた自尊心に、瑛は動きを止め限界まで膨らんだ春巳の熱から口を離しほくそ笑む。
「おい…」
もう少しだったのに、と不満げな声で文句を言う春巳を見上げ、瑛は濡れた口元を手の甲で拭いながら、「俺にも触ってよ」と告げた。
*****
土曜日の午前十時。
この日は瑛も春巳も仕事は休みで一日の予定もなし。
外は梅雨らしく土砂降りの雨で、しばらくは止む気配もない。
外出もできず、特別にやりたいこともなく、顔を洗い歯を磨きはしたものの、二人そろって部屋着のままで髪もとかさずにただぼんやりと過ごして早一時間が経過した。
退屈さに欠伸をした瑛は、ふと三人掛けのソファで僅かに距離を取って座る同棲相手を見た。
朝食を終え、後片付けを済ませた直後からスマホ片手に無言でスクリーンばかりを眺めるのは眼鏡をかけた横顔で、朝の挨拶以降、彼の目が瑛に向けられることはなくなっていた。
「春巳――」
ごく普通の声量で呼び掛けるも、春巳はただ「ん?」と返すだけでこちらを見ようともしない。
いくら話しかけても生返事。
しまいには、うっとうしい、と言いたげにため息を吐かれてしまった。
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