先生たちの夜の顔
体育教師と数学教師。見た目も性格も雰囲気も対極な二人──佐野潤也と横田美希人(みきと)は、同じ高校に勤めながらこっそりと交際している。お互い仕事が忙しく、すれ違いがちな日々の合間をぬって会う夜は、どうしたって盛り上がるもので…。玄関先でのキスから始まり、バスルームへとなだれ込んだ二人は濃密な夜を深めていく。
「ン、はぁ…」
「なに? 今日、積極的じゃん?」
「先週も、その前も…休日にいない、お前が悪い」
「運動部の顧問やってると、ほんと土日ないよね」
玄関を開けて入るなり、噛み付くようなキスをしてきた恋人を抱きしめて、潤也は柔らかく笑った。佐野潤也、職業・高校の体育教師、24歳。見事に割れた腹筋に、剛腕剛脚。童顔で天然、そして少し暑苦しいほどのエネルギッシュなキャラクターで、生徒たちからは親しまれている。
「でもさ、美希人も平日はずっと残業続きだし…」
「進路指導が忙しくなってくる、時期だから」
「知ってる知ってる。だから今夜は俺で思いっきり発散して?」
横田美希人、職業・高校の数学教師、27歳。色白で長身、切れ長の涼しい目元を彩るのは銀フレームの眼鏡。風紀委員の顧問に、進路指導教員。良くいえば真面目だが、年頃の生徒たちからは潔癖で堅物で面白くないだの、厳しくて萎えるだのと言われがちなタイプの教師である。潤也の新任時代の指導担当で、昨年度の終わり頃から二人は密かに交際を始めていた。
「ぁ…ンッ…」
「ねぇ、一緒にシャワー浴びたい」
「お前…シャワーだけで済まないだろ」
「美希人だって、もう待てないでしょ? ほら、風呂場行こ?」
外でのデートは生徒や保護者と会う可能性があるため、ごくたまに遠出をするだけ。そのため、二人の時間のほとんどはここ、潤也が一人暮らしをしているマンションで過ごすことにしていた。忙しい教師同士、それも若い二人が顔を合わせれば、どうしたって優先順位は決まってくるもので。
「ッぁ…ばかッ…吸うな、痕つけるな」
「シャツをきっちり着る『横田先生』なら大丈夫ですよ?」
「そういう『佐野先生』は、もう少し着る服を考えてくれませんか? 授業で着るTシャツが派手すぎる…生徒たちに示しがつかない」
「えぇ…あれ、結構評判いいんだけど」
学校ではお互い『横田先生』『佐野先生』と呼び合い、言葉遣いも丁寧である。職場恋愛は禁止ではないが推奨もされておらず、加えて男同士ということで周囲には交際のことは黙っていた。対極のキャラクターである二人の仲を変に勘繰る人間はおらず、一部の生徒からは『最悪の相性っぽい』とさえ言われている。
「でも正直、興奮するよね。誰も知らないわけじゃん? 美希人のここに俺がつけたキスマークがあるとか、美希人の乳首がこんなに敏感だとか」
「ッぁ、あッ…学校で、盛(さか)るな」
「美希人だって、俺のこと盗み見てるくせに。体育祭の練習のときとか、すごく視線感じたんだけど?」
「…見てない」
「うそ、見てた。俺の太腿? あ、それとも…ここ?」
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