雄穴貫通式~珊瑚龍神への供物~
「落ちる、落ちるゥ!!」息子の療養のため、友人の故郷へ移住した医師――利夫は島の老人50人に囲まれ、珊瑚竜神が祀られる神社の梁に宙吊りにされていた。“処女をも孕ませる力をもつ”と噂の珊瑚竜神は中年男性の肉体と精液を好むらしい。我が子を救いたい一心で島民に凌辱されていく利夫に訪れる“2つの奇跡”とは――?
「なぁ、利夫。お前に相談なんだけどさ…充(みつる)くんのためにも、俺の故郷に移住してみないか?」
夜勤に備え仮眠室へ向かおうとしていた俺は、同僚であり友人でもある外科医――江原(えはら)に呼び止められた。
江原はこの日当直で入っていて、いわば俺のサポート役。妻子ある身ながらも常日頃ナースステーションにいる看護師たちとセクハラまがいの猥談(わいだん)をしている彼が、やけに神妙な面持ちをしていたから…つい身構えてしまう。
「移住って…清龍島(せいりゅうじま)に?」
「あぁ。親父から電話があってさ。島民を診療していた大(おお)先生が死んじまったらしい。なんせ本土から遠く離れてっから…新しい医者が見つからねぇんだと」
彼の故郷、清龍島は“珊瑚龍神(さんごりゅうじん)”と呼ばれる神を崇めている小さな島である。38歳…俺より2コ下となる男の妻は現在3人目を妊娠中であり、8週目に入ったばかり。自身はつわりのピークを迎えている妻の傍にいてやりたいらしい。
そこで、白羽の矢が立ったのが俺というワケだ。
(充のためか…)
俺にも妻と5歳になる息子――充がいる。彼は現在の医療では治療不可能な難治性疾患を患っており、体調の悪い日が続けば幼稚園にも通えない。最近は投薬すら嫌がり、神経質な妻と家にこもってばかりいるのだ。
『お父さんはお医者さんなのに、どうして僕の病気を治してくれないの?』
何度そう問われただろうか。しかし彼に与えられるのは“その場しのぎ”の治療のみで、解決の糸口は掴めないままであった。
(充は楽しいことを知らないまま、短い生涯を終えちまうのかな…)
そんな不安に駆られていた俺にとって、江原の口から紡ぎ出される言葉は麻薬だった。
「島だったら空気も水も綺麗だし、充くんも喜ぶんじゃねぇか?こっちみてぇになんでもあるワケじゃねぇけど…野山を思う存分に駆け回れるし、川遊びだってできる。今はすっかり子供が少ねぇから、島民全員が充くんとお前の家族になってくれると思うぜ?半年でもいいじゃねぇか。今まで奥さんが1人で充くんの面倒を見てたんだろ。2人が移住している間、ゆっくり羽を伸ばしてもらえよ」
一番の問題は、妻を納得させることだったのだが…ほどなくして俺は虫かごを2つも3つもぶら下げた上機嫌な充と、フェリーに乗り込むことになる。
『…利夫、ごめんな…』
――見送りに来ていた江原の最後の言葉の意味がわからないまま。
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