わんことご主人の甘い生活

・作

土砂降りの雨の中、ゴミ捨て場に捨てられていた一匹の犬。通りすがりのごく普通のサラリーマンに拾われて、幸せな日々が始まった。だが、拾われたのはただの犬ではなく。そんな中、初めての発情期を迎えて、どうしていいかわからないままに…!

ひょんなことで、俺の運命は大きく変わった。

ここはゴミ捨て場。

「どうした、お前。ずぶ濡れじゃないか」

優しい声で傘を差しだしてくれたのは、栗色の瞳で、同じ色をした髪の毛は目にかからない程度に前髪を切り、後ろも襟足で整えた、スーツを着たお兄さん。

その人は俺に自分のジャケットをかけて家まで連れて行ってくれた。

そして、ご飯もくれて、お風呂にも入れてくれた。

あったかくて、嬉しくて、どこか俺は不安だった。

「そうだ、名前つけてやらないと」

俺の、名前をくれるの?

「うーん、そうだな…幸運がめぐるように、ラッキー…いや、ラック、うん、ラックだ」

ラック、それが俺の名前?

嬉しくて思わず鳴き声を上げて尻尾を振ると、その人は嬉しそうに笑う。

「気に入ったか?よろしくな、ラック」

こうしてこの人、もとい、ご主人と俺の生活は始まった。

ご主人は俺の生活に必要なものをいろいろ買い揃えてくれた。

散歩も毎日してくれて、汚れたらお風呂にも入れてくれる。

夜はいつも同じ部屋でご主人のベッド脇に俺をふわふわの毛布でくるんで寝かせてくれる。

本当は俺もご主人のベッドで寝たいけど、大きい俺の体じゃ狭いだろって。

俺はご主人が大好きになった。

ほとんどの日、ご主人は仕事っていうのでいなくて、でも帰ってくるとすぐに撫でて「ただいま」って言ってくれる。

休みっていう日は、一緒に買い物に行ったり、テレビっていうのを見たりする。

毎日が幸せで、嘘みたいだった。

そんなある日、俺の体に異変が起きた。

いつものようにご主人を送り出してから、無性に体が熱くて、お腹のあたりがうずうずして、落ち着かなかった。

熱を抑えられない。

苦しくて、胸が痛くて、痛みは全身に広がり、どんどん熱くなる。

「う…うぅ…」

唸りながらうずくまると、しばらく意識を失っていたみたいだ。

目が覚めると、いろいろな違和感があった。

いつもと体の感覚が全然違う。

ふと前足を見ると、形が変わっていた。

ご主人みたいに、指が五本あって、毛もない。

試しに後ろ足だけで立ってみようとすると、すんなりできた。

ゆっくりと歩いてみると、なんの抵抗もなく前に進む。

ガラス戸に映った姿を見ると、驚いた。

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