カンチガイ恋愛
松川が残業中に遭遇したのは親しい後輩、佐久間が告白される場面。モテる佐久間だが、『好きな人がいる』と告白を断っていた。翌日、松川が残業をしていると佐久間がやってくる。一緒に夕飯を食べることになったが、そこで松川は佐久間に「好きです」と告白される。そしてなぜか社長の不倫話になって──。
「ず、ずっと前から佐久間さんのことが好きでした! わ、私と付き合ってくれませんか?」
一休みをしようと外の喫煙所に出たときに、俺は告白現場に鉢合わせた。
もう夜遅いし、誰も残ってないと思ってたけど…まさか二人も残ってたとは。
それも告白のために。
(くそー。人が一生懸命働いてるってのに、告白なんていいご身分だな!)
タバコに火をつけ、勢いよく息を吐く。
つーか『佐久間』って…げぇ、またアイツかよ。
佐久間 優(すぐる)は俺が営業にいた頃の部下で、当時から超がつくほどモテていた。
仕事はできるし、人当たりはいいし、名前の通り優しいやつ。
「ごめん。俺、好きな人いるから」
「っ…そ、そうですよね。すみません、こんな時間に…」
「大丈夫だよ。それより気を付けて帰ってね」
「あ…ありがとうございます。失礼します」
送ってくのかと思ったけど、さすがにフッた相手を送るわけないか。
俺も早く仕事を終わらせて帰ろう。
*****
翌日、会社に出勤すると廊下で女性たちがうわさをしていた。
「えっ、フラれた? 広報課の子だったよね?」
「そうそう。昨日、彼女から告白するって聞いたんだけど、なんか好きな人いるからってフラれたらしいよ」
「好きな人ってどんな美人よ。彼女だって男性陣の中では人気でしょ? ムカツクけど」
「あはは…。でも、本当に即答だったらしいよ」
確かに即答でしたね。
女性たちの会話に心の中で返事をしながら、俺は自分の部署へと向かった。
「課長、おはようございます。昨夜も残業だったんですよね? お疲れ様です」
「おはよう。あはは、ありがとう」
「松川、そんな急ぎの案件あったか?」
「帰ろうとしたら社長に呼び止められてさー。別部署で不手際があったらしくてそれの後処理」
「うわっ…最悪ですね」
「ほんとによー。残ってる中でその仕事ができたの俺だけなんだよね」
「さすがはデキる男! 松川 琉人(りゅうと)!」
「褒めてねえだろ」
密かにあくびをしながらデスクに着く。
そのとき、パソコン前に缶コーヒーが置いてあることに気づいた。
付箋には『お疲れ』とだけ書かれていて、追加で寄こしてきた資料がその下にある。
「うぇ…」
「お疲れさまです、課長」
「さ、松川に負けずに仕事仕事!」
今日はいくつか会議だってあるのになんてことだ。
でも社長からの期待に答えなくてはならない。
「課長って社長からの信頼が厚いですよね」
「そりゃあそうだろうなー」
「おい」
「わかってるわかってる。二人の愛ある関係はナイショだろ?」
「おいっ」
「きゃーっ! お二人ってそういう関係なんですか!?」
そういうってどんなだよ。
社長と俺が愛人とでも言いたいってか? ばかばかしい。
「ほら仕事すっぞ」
「はーい!」
このときの俺は昨日の告白現場とは無縁に過ごしていた。
彼の『好きな人』に自分が関わってるなんて一ミリも思いはしなかったからだ。
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