甘い匂いを上書きさせて
藍には一緒に暮らしている義弟の柊哉がいる。ホストをやっている柊哉は必ずと言っていいほど、甘い香水とお酒の匂いをまとわせていた。寝たふりをする藍の耳を舐めながら「セックスしよ」と柊哉は今日もささやく──。
廊下からする物音に目が覚めた。
ただいまの時刻、午前三時。時間を確認するだけで、俺のまぶたはまた落ちる。
ホストクラブで働く義弟の柊哉が帰って来たのだろう。
睡魔に逆らうことなく、二度寝をしようとしたときに部屋のドアが開けられた。それでも睡魔に勝てず意識はどんどん深くなる。
甘い香水と酒の匂いをまとった柊哉(しゅうや)が、ベッドをきしませながらささやいた。
「にーちゃん、セックスしよ」
その言葉でさえ睡魔には勝てない。
「にーちゃん、兄貴、にーさん、おにーちゃん、兄上、お兄様ー」
さまざまな呼び方をする酔っ払いは俺の身体に乗りかかった。
耳にキスをしながら、わざといやらしい音をたてながら舌を耳の中に侵入させる。
耳を執ように舐めまわされ、頭に直接届くようないやらしい音に身体が感じた。
「んっ…ぅ」
「寝てるのに耳だけで感じるなんて、俺の兄貴はやらしいなぁ」
「ッ…」
「ね、セックスしよ?」
「あっ…ッ!」
さらにくちゃくちゃと音が響き、抑えられずに声がこぼれた。
逃げるように柊哉の身体を押しのけると、掛け布団を引っ張る。
「しないっ」
「いいじゃん、このまんまじゃ辛いでしょ。ココ、反応しちゃってるよ?」
柊哉は俺の身体を包み込みながら、下半身へと触れた。その手を力ずくで引き離し、丸くなる。
確かにちょっと反応してるけど、その処理よりも今は寝たい。
「おにーちゃん」
「ヤダ」
「こんなに可愛い弟がお願いをしているのに?」
「弟とセックスなんかしねーよ。おとなしく寝ろ」
すると柊哉は静かになり、ようやく寝ることができる。
いい感じに身体から力が抜け、眠りにつこうとしたとき俺を包み込む腕に力が入った。
「藍、一回だけセックスしよ」
さっきとは違う低く甘い声が吐息と共に耳に響いた。
なんでそんなにしたがってるのかはわからないけど、こういうときはたいてい嫌なことがあったときだ。
仕事関係の飲み会で柊哉は酒に酔うことはない。ぐでぐでになっていたのは、家に帰ってきて気が抜けたのかもしれない。
そう思うと相手にしない…という選択はできなかった。
攻めが冷静すぎる
えっっっろ←
雀 さん 2021年2月18日