その声で抱いて

・作

男は行きつけのゲイバーで、マコトという青年に出逢った。逢うなり関係を求めてきたマコトに流されるままにホテルに来て、男とマコトは関係を持つ。しかしマコトは男の名前を聞こうともせず、目を合わせてもくれなかった…

大好きだった人が結婚相手を連れてきた。僕の、決して叶わぬ恋は、今日、しっかりと崩れ去った…――。

 

その日、生まれて初めてマコトは、ゲイバーというところにやって来た。23年間生きてきて、自分が同性愛者だということは、随分昔からわかっていた。そして、こういう場があることもとっくの昔に知っていた。それでも頑なに今まで足を踏み入れなかったのは、ずっと、1人の男を想い続けていたからで。

 

慣れない場所で、会話もそこそこにグラスビールを飲み干した、そのとき、カランと鉄製の鐘の音と共に新たな客がやってきた。

「あら、いらっしゃい。今日は早いじゃん」

カウンターを挟んで、マコトの向かいにいたママ(どう見ても男だが、「私がママよ」とマコトに言ってきたのだ)が、その客を見て笑っている。

「うん。何か出会いの匂いがしたんだよね」

その声を聞いた途端、マコトはガタッと勢いよく立ち上がって後ろを振り返っていた。そこにいたのは、マコトの知らない男だった。

「ん…?見ない顔」

男がそう言うと、マコトはふるふると唇を震わせた。ギュッとかたく目を閉じて、マコトは男に言った。

 

「僕と ホテルに 行ってくれませんか」

 

戸惑う男の顔は、マコトには見えていなかった。

 

「アンタ、初めて来た割にはなかなか大胆ネ」

あきれとも感嘆とも取れるママの言葉に見送られて、マコトは男とゲイバーを後にした。

「この界隈なら大体入れるよ」

という男の言葉通り、ホテル側から拒否されることもなく、すんなりと近場のラブホテルに入室できた。

 

「シャワー先に使う?」

出会って20分、まだ距離感も掴めていない間柄では互いのことなんてわかるはずもなく、とりあえず、といった感じでそう男は聞いてきた。

「来る前に準備してきてるんで、大丈夫です。浴びるならどうぞ」

淡々と言い放ってマコトは、部屋の中央に鎮座するクイーンサイズのベッドに腰をおろした。

「あー…や、俺も、ジム帰りでシャワー浴びてきたんだけど」

その言葉を聞くが早いが、マコトは男の方を見ないまま、言う。

「じゃあ、早く…抱いて」

 

***

 

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