幸せな耳フェチのおはなし (Page 3)
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到着した宿は、県道から伸びる山中への一本道を登りきった先にあった。
木々に囲まれているが、豪華なたたずまいのこの宿は隠れ家的な存在で、著名人などもお忍びでやってくるそうだ。確かに看板もでていないし、ネットにも載っていなかったが、これだけ大きな宿なら、もう少し従業員の姿見を見かけてもよさそうだが、駐車場からここまでの間に人影は見当たらなかった。
「いいとことでしょ?昔よくきてたんだ〜」
カウンターにただ1人いたスタッフによってチェックインを済ませると、違和感を尋ねてみることにした。
「すごくいい所だけど、やけに静かっていうか、宿の人とか全然いなくない?」
キョトンとした表情で京一は答えた。
「そりゃそうだよ。ここは高級ラブホっていうか連れ込み宿っていうか、いわゆるそういうところだからね。あ、でもご飯もお風呂も最高だから安心して!」
なるほど、そう言われれば納得がいく。宿の作りもチェックインするこのロビー以外は、すべての客室が離れのような仕様になっていて、露天風呂もすべての客室についているらしい。つまり、人目を気にせずやりまくれるっていうわけだ。ウヒヒ…などとほくそ笑んでいた。
「あれ?キョウちゃん?!」
突然のことに驚き、声の方を振り返ると2人組の姿があった。
「わぉ!久しぶりー!元気でした?」
「本当にキョウちゃん?」
「ユタカさんと、タカシ?わー偶然!元気だよ〜!」
2人は、以前京一が働いていた店のタカシと、そのパトロン的な存在のユタカだと紹介された。タカシは、少し小柄赤毛でかわいい系、アイドルといった雰囲気のノリの軽そうな印象だ。一方ユタカと紹介された男は、180cmはある高身長に、チャコールグレーの麻ジャケットをさらりと羽織り、色グラスの向こうにイケメンが伺えるどこぞの芸能人のオフといった感じだ。
「キョウちゃんたちと来たのもずいぶん昔なっちゃったね〜懐かしいなー」
「なに、今日はデート?!」
「えへへ、そうだよ〜」と会話を続ける京一とタカシをよそに、ユタカは雅人の様子をじろじろ見ているかと思ったら、
「うちらは、明日には帰るんだけどさ、よかったら今晩、ご一緒しないかい?」
「お、ユタカ、4P?!いいねぇー」
――なななななんていうこというんだ?!
「いや、さすがにそれは—」
「着いたばかりで疲れてるので、じゃ、失礼しますね!!」
雅人は京一の手を引くと、挨拶もそこそこにその場を足早に立ち去った。
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