彼の危険なパンドラの箱 (Page 4)
強姦されてから、女を見ることができなくなった。
よくある話だ。
俺の性欲の対象、恋愛対象は自然と同性になる。
それから好きになんのは男。
男以外、好きになれずノンケにばっか恋をする。
そして本気だった会社の同僚に失恋して、いつものようにマスターに話を聞いてもらっていた。
あぁ、そっか。
彼が『ごめん』と謝ったのはコレか。
鹿目くんの話をしたのは、少しでも俺に『こうなること』を予想させるためか。
「ははっ…」
「…梓乃さん?」
鹿目くんの腰の動きが止まり、俺は視線をあげた。
情けなく涙が流れ、ぼやける視界で鹿目くんを見上げる。
「俺は犯される運命なんだなぁ…」
「犯す…? 俺は犯してなんて!」
「ないわけねーだろ。人を酔わせて抵抗できなくして犯してる。何が違うわけ?」
体液とローションでベトベトになった身体。
俺を組み敷く男をにらむように見上げる。
彼は泣きそうな表情でうつむき、起き上がった。
俺の中から肉棒を抜き、ベッドへと腰を落とす。
「…梓乃さん、俺のこと眼中にないじゃないですか。純粋そうとか、タチだからとか」
「組み敷かれるのが嫌いだからな」
「俺、梓乃さんが初めてですよ」
「…え?」
ポタポタと透明な涙がお腹に落ちる。
起き上がると、鹿目くんは俺をにらみながら言葉を続けた。
「本当はこんなことするつもりなかった。でも梓乃さんが失恋相手に告るって言うから我慢ができなくなったんです」
「…いや、それは…」
「梓乃さんが男を口説いてても目をつぶりました。一緒に店を出て行っても止めることができなかった。遊びだからって我慢して、我慢して、我慢して…! ようやく失恋してくれて俺の出番がきたって。そう思ってたのに、告るなんて酷いじゃないですか!」
鹿目くんの涙は止まらず、思わず手を伸ばした。
そのとき、その姿が幼い少年の姿に重なる。
いつもお金をたかられる、ひょろっとした弱々しい男の子。
近所に住んでいて、俺を『お兄さん』と慕ってくれていた『レン』。
小さい頃から俺についてまわって、俺を好きだと言っていた男の子。
「…気づかなくて悪い」
「ッ…梓乃さん…?」
「鹿目レン…だよな?」
「ッ…そうです、そうですよ…!」
あの頃よりも大きくなった頭に手を乗せる。
その髪を撫でると、ぎゅっと力強く抱きしめられた。
「すみません。怖い思いさせて、すみませんでした…!」
「ん。俺のほうこそごめんな。気づいてあげられなくて」
「…本当ですよ、もう」
「つーか童貞でテクありすぎだろ」
「勉強したんですよ。マスターにもたくさん聞いたんです」
「じゃあ…ご褒美を与えなきゃな」
鹿目くんのあごに指を添え、自分から唇へとキスをする。
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