背徳の支配者
神父の私に忍び寄る魔の手――突然横行し始めた嫌がらせ行為に怯(おび)え泣く子どもたちを救うために、私は「愛人になれと」迫る男の要求に応じ、彼に身を捧(ささ)げる決断を下した。
どうか、神のご加護を――。
人気がなく、がらんとした礼拝堂。主祭壇(しゅさいだん)を前にして、私はロザリオを握り、ひざまずく。
高い天井、空からふりそそぐ陽光が、円形の上部を飾るステンドグラスの窓を通して石造りの壁や床のいたるところにきらびやかな影を作り出していた。
その影が太く、短くなるにつれ、私の心の大半を憂鬱(ゆううつ)が占めていく。
正午の鐘の音に交ざるのは、古びた扉の開く音。
赤い布の敷かれた通路を無遠慮に歩む足音が私の心をかき乱した。
「――ったく、たまには愛想よく出迎えるくらいできないのかよ」
広い空間に反響する声は荒く、命令じみた乱暴な言い回しはこの場において不釣り合いなものだった。
なにを言われようとも、私は片膝を突き、背を向けたままの姿勢で招かれざる訪問者に対し無言をつらぬき通すまでだ。
「それでも構わないけどよ」
徐々に近付く声と足音は私の背後にまで迫り止まる。
「今日もよろしくな、神父さん」
ニヤついた音色と黒い祭服(さいふく)越しに肩を掴む手に私は込み上げる嫌悪を押し殺し、静かに頷いた。
*****
「ん、ぁ…」
唇から漏れた小さな呻きすらも残響(ざんきょう)となる空間で、私はひたすらに奥歯を噛み締めた。
祭壇から見て中程の長椅子の上で彼は私を組み敷いた。
半端に祭服を脱がせた手は私の胸元に置かれ、首筋には彼の唇が這う。
「ここ、気持ちイイんだろ?」
「そんな、ことは…っ、ぁ、く…ぁ…」
否定の言葉はすべてを紡ぐ前に途切れてしまった。
素肌をなぞる指が胸の先端を弾(はじ)いたからだ。
「神様の前で嘘を吐く気かい?」
からかい口調の問いかけには顔を背けまた無言を通す。
そんな私を、彼は「いい度胸だ」と嘲笑(あざわら)い、寒さと刺激により芯を持つ尖りを何度も指で掠(かす)めてきた。
「ん…、ぅ…」
触れ方はもどかしく、けれども的確に私の内に秘めた劣情をあおった。
彼の手に堕ちるのは、今回が五度目になる。
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