いざないの合図はいつでも甘い (Page 2)

俺は『寝起きやくざ』だそうだ。
半年前から一緒に暮らす、会社の先輩である優希から言われた。
その言葉が一般的に使われているのか、優希の造語なのかはわからない。初めてそう言われたとき、俺は意味がわからなかった。

「寝起きの朔(はじめ)はすごく機嫌が悪いからさ。物を壊しそうな雰囲気だな」

すごく、に力をこめて優希から言われたとき、俺は、確かに、としか返せなかった。小さなころから朝に弱いから。

優希と暮らすようになってから、俺の朝はだいぶまともになった。
今朝も、大事な商談を抱えた俺のためにお弁当や資料を作ってくれたのに…。
俺は緊張しすぎて眠れず、優希に起こされたときに「しつこいよ」と、言ってしまったのだ…。

優希を怒らせてしまったと気づいたときには、優希はもう家を出ていた。
今日は優希の好きなものを買って帰ろう、なんとしても仲直りするんだ!
そう考えていた矢先の、優希からのカフェオレ。
俺に逆らえるわけがなかった。

*****

俺より先に家に帰っていた優希は、お風呂に入りたてです、という体で俺を迎えてくれた。

優希の少しはだけた胸に触れると、鼻にかかった高い声が優希の口から漏れる。甘さを含んだ声は俺の耳を刺激し、もっとほしいという思いが沸騰する。

「あ…んっ」

ボディソープもヘアケアも、俺と同じものを使っているのに優希の体からは俺とは違う香りがする。甘くて、温かい香り。
その香りに触れるとどきどきして、体の奥がきゅっとした。

「優希の匂い、好き。優希がすごく好き」

優希を一直線にベッドへ連れていき、強く抱きしめる。お風呂上りで蒸気した優希の顔が、いっそう赤くなる。

「何言ってんだか」
「素直な気持ちだよ」
「寝起きも今くらい素直だと助かるよ」
「…努力、します…」

優希の香りを深く吸い込む。

「カフェオレの合図、久しぶりでどきどきした。同棲してから聞かなくなってた」
「会社だったから…」
「うん。わかってる」

同棲する前。
夜を一緒に過ごしたいときはカフェオレを選ぶというルールがあった。優希と俺だけにしかわからない合図は、高揚感と少しの後ろめたさがつきまとっていた。

「…仕事が終わるのが待ち遠しかった」

優希の甘くて清潔な肌を唇と舌で味わう。形の整った薄い唇、耳の後ろ、鎖骨のくぼみ、胸、わき腹、背中…。触れられるすべてをゆっくりと愛撫(あいぶ)する。

「あ…、あっ、あっ…、や、…っ」

薄く張り詰めた胸を何度か口に含み、歯を立てれば優希の体が小さく震えた。優希の下半身が伝えてくる興奮が少しずつ大きくなる。
優希の脚の付け根のラインに唇を這わせ、尾てい骨からその下のくぼみへと指を滑らせる。

「んっ、あっ!」

じんわりと浮かぶ汗と伝い落ちる優希の先走りでしっとりとしてはいるものの、うるおいはない。指と手のひらの温度でじっくりとそこをゆるませた。

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