囚われの保育士は過保護な早漏先輩を射止めて (Page 2)
僕、宮園唯(みやぞのゆい)はこの春から保育士となり、今いる五月雨(さみだれ)保育園で4歳児クラスであるリス組の副担任を務めている。
弟が3人いる僕は、昔から子供の面倒を見るのが大好き。純粋無垢で、探求心のかたまりである尊い存在は、いつも僕に新たな発見を与えてくれる――生半可な気持ちではなく、子供の心を第一に考えられる先生になりたくて、苦手な歌やピアノも懸命に勉強し、ようやく採用されたんだ。
こんな不器用な僕を引っ張ってくれるのは、8歳年上の火煙拓斗(ひえんたくと)先生。
30歳には見えないくらいのしっかり者で、年上の先生や、園長先生にも自分の意見を言えるし、残業してでもお母さん、お父さんの相談に応えてくれる頼れる先生なんだ。
そんな火煙先生が、春から始めたのが『パパのお話会』というお父さん同士の交流会。今は男性の育児参加も呼びかけられているけど、まだまだ定着していないからね…。せっかく担任・副担任を男2人で担当することになったからと、父母会とは別に月1で開催できないか園長先生に掛け合って、OKをもらったんだ。
「火煙先生、お疲れさまでした!僕、教室の後片づけをしてきますね」
秋の風が吹き始めた9月初旬。今日は『パパのお話会』の日だったんだけど、担任である火煙先生は運動会のポスターを作る仕事が残っているみたいだったから、“教室の片づけは、僕ひとりでやります”って言ったんだ。
「悪いな…一段落したらすぐ行く。机の重さで引っくり返んなよ?」
園児用の机やイスは小さくて重くなんてないのに、火煙先生はそう冗談を言いながら、『サンキュ』と片手を上げて僕を見送ってくれた。
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「まったくもう…火煙先生ってば心配性なんだから――!」
誰もいなくなった教室に戻り、机を運びながら火煙先生の顔を思い出す。
確かに僕は頼りないかもしれない。
あの日だって、僕が気を取られたりしなければ翔(かける)くんもケガをしなくて済んだし、火煙先生も園長先生もあの人に頭を下げて、責任を問われる必要もなかったのに。
自分の不甲斐(ふがい)なさに腹を立て、唇を噛むと鉄の味がした。
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